平成31年度入学式

 始業式の項でも書きましたが、4月8日の入学式当日は、朝方に雨。夕方に土砂降り。そして、入学式をしている間はとても素晴らしい天気。まるで天が37期生の入学を祝ってくれているようでした。

 そんな中で私が式辞で話をしたのは以下の内容です。

「今年は桜の開花が遅かったですが、週末に気温が上がったことで、校庭の木々も芽吹き、皆さんの入学を祝うように、良い天気となりました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、保護者の皆さまにおかれましては、お子様のご入学、本当におめでとうございます。あとさきになりましたが、本日、ご来賓の皆さまには新入生の高校生活のスタートをともにお祝いいただきますこと、御礼申し上げます。

 さて、新入生の皆さん、皆さんに二つの話をしたいと思います。今から8年前、2011年、平成23年3月11日、午後2時46分、マグニチュード9の大地震が東北地方を襲い、多数の死者・行方不明者が出ました。東日本大震災です。その地震が起きた三か月後、府庁の職員をしていた私は、岩手県に三週間、被災地支援に行きました。そこでの私の仕事は、毎日毎日、避難所を回って、必要な支援物資を届けることでした。

 避難所で知り合った20代の男性に、大阪に帰る直前にこんな話をしました。『大阪の高校生に何か、伝えたいことはありますか』。彼は『今を大切に生きて欲しい』、『今できることに精一杯取り組んでほしい』と言いました。なぜそんなことを言うのか。彼には高校時代から付き合っている彼女がいました。5年以上付き合って、二人とも結婚を意識していて、そろそろプロポーズをしようと考えていたそうです。明日しよう、...でも仕事が忙しくて、また明日にしよう、...でも友人と遊びに行くのを優先して、そして、3月10日の夜、明日の仕事が終わった後にデートすることになってる、夕食を食べることになってる、その時に言おう...と思っていたら、あの大地震が起きました。彼女は津波にさらわれてしまい、亡くなりました。彼は悔やんでも悔やみきれないと言います。今を大切に。今出来ることにしっかりと取り組んでほしい。

 高校生になった皆さんにとって、『今出来ること』『今しなければならないこと』とは何でしょう。それは一つは勉強。一人ひとりが高校生としての自覚を持ち、将来の夢を実現するために、頑張ってほしいと思います。もう一つは、部活動です。これは高校時代しかできない。ぜひ、何か部活動に入って、多くの仲間とともに、高校生活を前向きに送ってほしいと願っています。

 被災地で出会った人の話をもう一つします。現地には、大阪からも多くの人が支援に来ていて、そこで出会った高槻市の職員さんがこんな事を言われていました。『私の仕事は戸籍や住民基本台帳の復元です。全ての戸籍や住民票の台帳が津波で流されたので、現地の人に聞き取りをして、一から名簿を作り直してます。被災した沿岸部には宿がないので、内陸部の宿舎で寝泊まりしてます。朝の5時に起きて、6時には宿舎を出て、8時前には被災地の仮庁舎に入り、夜の11時まで仕事をします。肉体的には大変だけど、誰かの役に立っていると思うと、頑張れます』。他にもたくさんの支援者と出会いましたが、皆さん、『誰かを支えている、誰かの役に立っていると思うと、元気が出てくる、頑張れる』と言われていました。先日引退した野球のイチロー選手も、『最初は自分のために頑張っていたが、ニューヨークに行ってからは、人に喜んでもらえることが自分の喜びに変わった』とインタビューで答えていました。

 そうです、人間は自分のためだけでなく、誰かのために頑張ったり、誰かをを支えようとした時こそ、はるかに力を発揮できるのです。昨年の大阪北部地震の際には、私たちも多くの方から支えてもらいました。支えるべき人がいたら、手を差し伸べて、支える。自分も誰かに支えてもらって頑張る。それがあなたを成長させることにつながります。

 新入生の皆さん、どうか、今という時間を大切にしてください。今しかできないことにチャレンジして、今を大切に過ごしてください。そして、誰かを支えて、誰かの役に立つことで力を発揮してください。阿武野高校の3年間で皆さんは様々な友人や先輩、後輩と出会います。自立支援コースに在籍する仲間とともに、『ともに学び、ともに育つ』ことで、誰かの役に立ったり、誰かを支えたり、逆に誰かに支えられたり、という経験をします。そんな中でこそ、あなた自身がこれまで以上に成長できるのではないでしょうか。今を大切に生きて、誰かのために力を発揮する皆さんが5年後10年後に幸せになれるように、阿武野高校の先生は、皆さんとしっかりと向き合い、時には厳しく、時には優しく寄り添っていきます。皆さんがこれから本校で学び、やがて卒業する時には、それぞれの夢の実現に向けて大きく前進していることを期待して、私の式辞といたします。」

 素晴らしい天気のもと、式場となった体育館には凛とした空気が流れ、新入生の皆さんは真剣な眼差しで私の話を聞いてくれていました。これからの三年間が37期生にとってかけがえのない充実した日々となることを祈っています。