平成27年3月5日第三十六回 卒業証書授与式 式辞

第三十六回 卒業証書授与式 式辞

寒暖の繰り返しで、春の兆しをなかなか感じられない日々が続きましたが、本校の中庭の梅はもう立派に咲いていて、この卒業式を祝ってくれています。

本日ここに、大阪府立高石高等学校、第三十六回卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、大阪 府議会議員 奥田康司様の御代理をはじめとして、多くのご来賓の臨席を賜り、心からお礼申し上げます。

保護者の皆様、おめでとうございます。本日まで 本当にさまざまなご苦労がおありだったと 推察いたします。ここまで お子様方をしっかりとはぐくまれてきたことに、心からの敬意とお祝いを申し上げます。

さて、卒業証書を授与いたしました 卒業生の皆さん、いよいよ卒業です。

皆さんにお伝えしたいのは、できるだけ若い間に 多くの葛藤を経験してほしいという事です。葛藤とは、葛(かずら)や藤の「つる」がもつれ合い、なかなか解けないことから、同時に起こった相反する事柄のどちらを選ぶか、悩むことを意味します。子どもの間は好きか嫌いかで、中学生や高校生になると、学校があるという事を中心に物事を決めてきたので 判断に悩むことはあまりなかったと思います。

これから、特に社会人になってからは、例えば約束があるのに残業 と言われるなど、葛藤する場面が増えてきます。自分がしたい事を選べない、こっちの方が良さそうに思えるが賛同を得られない という場面で 葛藤が生じます。このような状況で凍り付いてしまう人がいます。どうしようもないのに、それでも 意にそぐわないことを選択するのが嫌だと思っているからです。

自分の意にそぐわないことでも、葛藤を乗り越え判断を下すには、「折り合いをつける」ことが必要となってきます。「折り合いをつける」ということを、「あきらめる」「がまんをする」ことだと思って、「妥協はしたくない」と主張をまげない人、或いは自分のしたい事しかしないという人がいます。この人たちは悩むことがないので、葛藤を感じることがありません。

しかし 年を経て、皆さんが 家族を持つようになると、「大事な仕事があるのに 子どもが熱を出して 看護しなければならない」といった、自分の思いだけでは判断を下せないことが生じてきます。中には「同時に親の介護もしなければならない」という二択どころか 三択を迫られることもあります。

体は一つしかないので、中途半端にはなるけれど 時間を分けて 少しずつすべてに対応する、または人に頼んで自分のできない部分を助けてもらうといった方法でしか解決できません。

若い頃から 葛藤を何度も経験している人は、短い時間で 判断から処理に至るので、これを選ぶしかないが、でも本当に他に方法はないのかと検討する余裕があり、時としてどちらも可能にする策を思いつくことがあります。一方、葛藤を避けてきた人は、処理経験を積んでいないので無駄な時間を使ってしまい、策を思いついても的確に対応できる機会を逃すことがあります。

では、「折り合いをつける」には、具体的に どうすればいいのでしょう。私はこんな風に考えています。

[ひとつ] 当事者意識を持つ。コンビニで商品を選ぶのとは違って、選択肢は少ししかありません。当事者意識のない人は「品揃えが悪い」と文句を言っているだけで、一向に解決に至りません。当事者、例えばコンビニのオーナーの立場に立って、選択肢を増やせないか取り組んでみましょう。

[ふたつ] 二極化で考えることを避ける。自分の思いを全部通したいと考えている人は、相手もそう考えているとは思い至らないので、いつまでも決着がつきません。〇か×(ばつ)以外の解決法、部分的でも自分の思いを実現できる第3の方法はないかと考えてみましょう。

[みっつ] 時には力を借り、時には力を貸す。力を借りることは恥ではありません。力を借りることができる人とチームを組めば、解決の糸口が自分の知らないところにあっても、見つけることが できるかもしれません。また、力を貸して人のチームに参加すれば、自分の解決能力を高める実践練習にもなります。

こう考えると、[折り合いをつける]には、相手を理解し、受け入れ、認めた上で調整するという対応が求められます。そしてどちらからもこれなら仕方がないと思える 納得ポイントを折衝して探るという事になります。これは大人の仕事です。精神科医の上村順子さんは、「葛藤を心に抱えながらも、それを乗り越えて生きられるのが大人である」とおっしゃっています。

悩んだ末に出した決断が、あきらめたり我慢したりして下した決断と、結果的には同じになるかもしれません。でも悩んで出した決断には、自分の納得が含まれています。一方、「もうこれでいい」と思ってしまうと、その瞬間に ほかの考え方や提案を 受け入れられなくなり、その結果、「あきらめる」「がまんする」という事になってしまいます。

皆さんは、高石高校の教育目標、「勉学、部活動、学校行事の 三分野すべてに 情熱をもって取組み、しかる後に自分の希望する進路に到達する、心爽やかで 逞しい生徒を育成する」のもと、3年間トレーニングを積んできました。部活動・学校行事と勉強の両立で経験した葛藤を通じて、心に葛藤を抱えながらも、それを乗り越えられるだけの基礎体力を身に着けました。これからは、実際に葛藤を乗り越える実践練習になります。実践練習を積みながら、どうか自分に自信を付けていって下さい。

高石高校は 皆さんの母校、母なる学校です。そして これから船出する皆さんの母港、母なる港にもなりますように。

皆さんが 嵐の海にも耐えて 航海を続けられるよう、本日 参列いただいたすべての大人の方々と 航海の無事を 祈りたいと思います。ボンボヤージ、卒業おめでとうございます。

平成二十七年 三月五日               大阪府立高石高等学校  校長 渡邊和也