平成27年4月8日平成27年度1学期始業式挨拶

150408 平成27年度 1学期始業式 あいさつ

おはようございます。いよいよ新しい学年が始まりました。皆さんは3月の終業式にお話したことを覚えているでしょうか。

2016年夏の参院選で「18歳投票」が実現すれば、特に3年生は最初の18歳投票者として、日本の在りように自分の思いを投じなければなりません。単なる消費者としてではなく当事者意識を持って、この国のこれからを判断してほしいと話しました。ほとんどの国では、成人年齢と投票ができる選挙権年齢は同じです。ということは、「18歳投票」が実現すれば皆さんは18歳で成人とみなされるということです。つまり3年生ならあと1年、2年生ならあと2年で大人にならなければいけません。

大人になるということはどういうことでしょうか。前回、私は当事者意識を持つことだと言いました。一方、フランス哲学者の内田 樹さんは、『大人と子どもの違いは、子どもは「やりかたのわかっていること」しかできないけれど、大人の条件は「どうふるまったらよいのかわからないときにも適切にふるまうことができる、つまり、こういう場合には何をすればいいのかを示すマニュアルやガイドラインがないときにも、最適選択ができる』」ということだと述べています。 

「どうふるまったらよいのかわからない」緊急事態を私たちは経験しました。東日本大震災です。発生以来4年がたちますが、想定外の震災に対して、また原発事故に際して、私を含めた年配者は若い皆さんに、「どうふるまったらよいのかわからないときに適切に振る舞えた」大人の姿を示すことができませんでした。ただ、歴史から「どうふるまったらよいのかわからないときにも適切にふるまうことができた」ロールモデルを示すことができます。それは幕末から明治にかけて活躍した人たちです。「帝国主義列強による植民地化」という危機が迫まってきて、なんとかしなければならないのに、でも実は「帝国主義列強」の実力を知っていた人間なんかほとんどいなかったのです。まさに、何をすればいいのかを示すマニュアルやガイドラインがない事態です。そういう危機に際して、大政奉還という必死の策で植民地になることを防いだ坂本竜馬、勝海舟、小松帯刀、高杉晋作といった人たちの業績を知ることは、「大人になること」に役立ちます。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(文春文庫)をぜひ読んでみて下さい。8巻もありますが、改行が多く読み易いと思います。

ところで、当時の本物の大人たちが危機を回避するために打ち出した大政奉還1867年から70年後の1937年、日本は後の太平洋戦争につながる日中戦争に突入します。折角の大人の仕事をなぜ台無しにするようなことになったのでしょうか。私は当時の指導者に、日本は強くなったという傲慢な思い込み、おごりがあったからだと思います。謙虚な姿勢、あるいは他者を受け入れ他人の痛みを感じるしなやかさを当時の日本は失ってしまい、結果として大勢の人が命を失い、1945年の太平洋戦争の終戦を迎えることになります。

今年、2015年はその終戦からちょうど70年後です。その間、この国は一生懸命取り組んできました。でも心療内科医の海原純子さんは、戦後70年で、舗装道路や高層ビルなど、外的な環境の変化に対してすばらしい適応力を見せる一方で、グローバル時代といいながら、異なる環境で育った人を受け入れる意識は育っていないと述べています。私たちは先人たちの取り組みから再び学んできたのでしょうか。今少々不安を感じています。

でも私は、「18歳投票」で皆さんが大人として、この国のこれからを真剣に考えてくれるので、なんとかなると信じています。でも18歳になるまでに皆さんに残された時間はそんなにありません。では大人になるためにはどうすればいいのでしょうか。当たり前のことですが、私は学び続けることだと思います。そのためには、まとまった時間がなくても、5分10分という半端な時間を有効に使って勉強することだと思います。ちょっとでもやってみる、少しでも長く続けてみることが大切です。大リーガーのイチロー選手はこんなことを言っています。「小さなことを積み重ねることでいつの日か信じられないような力を出せるようになる。」そんな皆さんなので、授業中に机に突っ伏して寝ることはないと信じています。1年後の皆さんを楽しみにして、始業式の挨拶としたいと思います。