3学期のスタートにあたって

 あけましておめでとうございます。阿武野高校では授業の確保の観点から、今年は7日に始業式を行いました。多くの学校が8日からのスタートですが、本校生は一日早く学習をスタートさせています。皆、元気な顔を見せてくれました。3学期の始業式では以下のような話をしました。

『あけましておめでとうございます。年末年始、皆さんはどう過ごしましたか。私は久しぶりに会う教え子に誘われて飲みました。彼は高校時代、勉強はあまり得意ではなく、何とか提出物を出してテスト前に頑張って、というタイプで、それでも無事卒業してくれました。毎日休むことなく、挨拶も元気にしてくれるのですが、授業中は寝ていることが多かった生徒です。卒業時の進路は未定で、その後どうしているのかと思っていたら、以下のような人生を歩んだそうです。

 高校時代からロックが好きで、友人と組んでバンド活動をしていた彼。なんばのライブハウスではそこそこ有名だったそうです。彼の夢はロックの本場アメリカで有名になること。卒業後、友人を誘い、アメリカに行こうとしますが、誰一人誘いに乗りません。それでも夢を諦めきれない彼は母親を説得し、単身アメリカに行くことを決意します。しかし、彼は自分をよく知っていました。「オレは結構ビビり。アメリカに一人で行っても、向こうに着いたとたんに日本に帰りたくなるはず。それではダメだ」と考え、ロスアンゼルス行の片道航空券と僅かなお金だけを持って日本を旅立ちます。

 ロスアンゼルスに着いた彼は、事前に調べていた日系人のコミュニティを尋ね、飛び込みで自分の思いを伝えます。すると、こういう街は同胞にやさしいのですね、住み込みで働かせてくれる飲食店が見つかりました。昼間はその店で働き、夜はライブハウスを巡ります。時にはオーディションも受けて。高校時代は英語の授業は苦手だったのですが、何とか日常会話は出来るようになった彼は1年程そんな生活を続けます。しかし、本場は違いますね。ロックバンドのレベルの違いにショックを受けます。どれほど頑張ってもとうていデビューできそうにない。ショックを受けた彼はバンドデビューの夢を諦めます。

 しかし、気持ちよく送り出してくれた母親や「自分は一緒に行けないけど、応援してるぞ」と言ってくれた友人のためにも、このまま日本に帰る訳にはいきません。彼は一念発起して大学に入ろうと考えました。日常会話は出来ても受験の英語力は身についていない彼は、地元の本屋に行き、小学校1年生の教科書を手に入れます。1年生の英語なら自分でもわかるのではないか。そう考えた彼は1年の教科書で文法を学び、2年生の教科書、3年生の教科書...そしてやがて大学受験の学力を身に着けました。日本と違って「入りやすいけど卒業が難しい」アメリカの大学も味方したのでしょう、彼は無事にアメリカのある大学に入学。その後も頑張って転学をして、UCLAを卒業。今では小さな個人経営ですが貿易の仕事に携わっています。

 彼の話を聞いていろんなことを考えました。夢を持つことの大切さ、自分を知ることの大事さ。母親や友人の思いを受け止めて他者のために頑張ることの凄さ。

 皆さん、今年は夢を見つける1年にしてください。すでに夢が見つかっている人はその実現に取り組む1年にしてください。その際には、一人で頑張るのではなく、誰かのためにも頑張るということを意識してください。

 3年生はあとわずか2週間余の授業だけです。1・2年生も1ヶ月余りで学年末考査。悔いの残らないように日々を過ごし、卒業・進級、そして夢の実現に向けて頑張ってください。』

 いつもそうなのですが、生徒の皆さんは私の話が終わると拍手をしてくれます。この時も、しっかりと話を聞き、受け止め、思いを込めて拍手をしてくれたように感じます。