創立50周年記念式典

50周年記念誌巻頭・これからの定時制高校

  定時制高校は、各時代の要請に応じてその姿を変え続けて来ました。かつての高度経済成長期、向学心やみ難い「金の卵」たちの学びの場であった頃、生徒の真剣な姿がノーベル医学生理学賞を受賞された大村智氏の発奮のもとになったことはよく知られています。どれだけ多くの人々が、定時制高校によって自分の人生を豊かに切り拓いていったことでしょうか。この時代が、厳しい状況にありながらも定時制高校の黄金時代であったのかもしれません。

  翻ってこれからの定時制を語ることは、社会の未来を占うのと同じ意味を持つでしょう。現在の「セーフティーネット」として、多様な生徒を受け入れるという役割は残るのでしょうが、少子高齢化の時代に生徒数そのものが増え、活気ある学校になるとは予測しにくいところです。

  このような状況下、我われ自身が定時制高校の使われ方を提言して行くことが必要かもしれません。専門学校との連携によるダブルスクールや競技スポーツとの両立、加えて難関大学への進学の実現などです。オーダーメイドの学校生活と言ってよいでしょう。事実、これに近いことを成し遂げた生徒も確かにいるのです。また国際化の進展とともに、外国人労働者向けの教育も視野に入って来るかもしれません。

  ただやはり、少数ではあっても勤労青年や、また定時制高校があればこそ進学することができたという生徒も確実に存在し続けるでしょう。そんな生徒たちのためにも定時制高校の窓に輝く灯は決して絶えさせてはならないのだと思います。

 

                             式  辞

 本日は、茨木工科高等学校・定時制の課程、創立50周年に際し、ご来賓また保護者の皆様にはご多用中にも関わりませず、ご列席を頂き厚く御礼申し上げます。

 一口に50年といいましても 本校の50年の存続の歴史には、生徒数の減少や再編整備による定時制高校の減少の中で、大変な努力があったものと、諸先輩方に敬意を表したいと考えます。

 さて今から20年前に行われました「30周年」記念事業で発行されました記念誌には、50周年を迎えた本校の様子が「夢」として予言されています。そこでは、「2008年に開催された大阪オリンピック」の年に始まった府立高校の改編を経て、定時制・通信制高校はONS(On Network Study)という、コンピュータネットワークを活用した在宅での学習が中心になると予測されています。また、レポートや試験もオンラインで実施しているとされています。

 現実には、現在そこまでは行っていませんが、授業のICT( Information and Communication Technology)化、情報化は着実に進んでおり、本校でも大半の授業で実施されているところです。 

 一方で技術教育に関しては、単純な工程はコンピューター制御の大量生産で行われるものの、より付加価値の高い、高度な技能教育が見直されていると指摘されています。これは「工業高校ルネッサンス」と称されています。実際に本校にある自動車系列で学ばれている車のメンテナンスなどは、人の繊細な感覚を欠かすことができないという点で、コンピューター化できない分野です。20年前、諸先輩が正しい方向性をもって将来像を描いていたことに感動します。

 さて、我々は次の10年、20年にどのような夢を持つことができるでしょうか。かつての10年の変化が今では1年で起きると言われています。ほんの少し前まで夢でしかなかった自動運転の自動車の実現が、現実の日程に上る時代です。

 ただ、どのような時代になっても産業の根本を支えているのは基礎技術です。これこそ本校が全力を挙げて教育している分野です。この点で本校は大阪府にとって欠かすことができない存在です。併せて、定時制高校という学校生活の形を求める生徒がいる限り、本校は、この地で伝統を守って行きたいと考えております。この決意を新たにすることをもちまして、式辞といたします。