7月19日 一学期終業式あいさつ

 平成25年7月19日 1学期終業式での言葉

 

これから夏休みが始まりますが、部活動や文化祭の準備で忙しい夏休みとなる人もいると思います。ただ、普段皆さんの時間を一番占めている授業がなくなるので、たとえ部活動の時間が長くなっても、気持ちに余裕ができるのではないでしょうか。日ごろできないことをするチャンスだと思います。

日ごろは、明日の試験に備えて勉強するなど、どうしてもすぐに結果が出ることに時間を取られています。そして最近、すぐに結果が出ないことは無駄なことと考える風潮があります。ずっと後になって結果が出ることもあるので、今は無駄なように見えても、無駄かどうかはすぐには分からないと思いませんか。

働きアリの中には、まったく働かないアリがいます。働かないアリだけを集めると働くアリが現れ、逆に働くアリだけにすると働かないアリが現れます。『働かないアリに意義がある』という本によると、働いていたアリが疲れてしまったときに、それまで働いていなかったアリが働き始め、常に組織が維持されているとのことです。働かないアリは怠けて組織の効率を下げる無駄な存在ではなく、むしろ組織を維持するために必要な存在だと言えます。パナソニック株式会社の創業者松下幸之助氏は、「世の中に存在するものでムダなものは一つもない、生かし方、用い方 次第ですべてが役に立つ」と述べておられます。

というわけで、この夏休みに、日ごろできない、すぐに結果がでないこと・直接には役に立たない無駄なように見えることに打ち込んでみてはどうでしょうか。

実は、高石高校では毎日、すぐに結果がでないこと・直接には役に立たないことに時間を割いています。毎朝の「朝の読書」の10分間です。この10分間でその日の予習や宿題をやりたい、その方がすぐに結果が出て、直接役に立つと思う人がいるかもしれません。でも、社会に出て働くようになると分かると思いますが、目先のことばかりにとらわれていると、知らず知らずのうちにどんどん消耗していってしまいます。直接役に立たないことに打ち込めるというのは、実は自分をリフレッシュさせる貴重な時間なのです。特に読書は、現実から離れて知らない世界に心を運んでくれます。毎朝高石高校で経験できる「朝の読書」を、大切に使ってほしいと思います。

「朝の読書」は本と知り合うきっかけだと私は考えています。人と知り合って、親しくなるには時間がかかるように、読書の醍醐味を味わえるようになるには、まとまった時間が必要です。夏休みにこそ、そのまとまった時間を取ってほしいと思います。

とは言っても、1・2年生と違って、3年生の皆さんは、進路獲得に向けてしなければならないことがあり、直接役に立たないことに打ち込む時間も余裕もないかもしれません。でも今更無駄と思うかもしれませんが、もう一度なぜこの進路なのかと振り返ってみて下さい。この夏休みが最後のチャンスです。

「この目標」と決めたところへ行き着くために、今考えている道以外に、ほかに道はないか。また、これぞと決めた目標も知らず知らずのうちに、周りの価値観に合わせて決めたのではないか。本当に自分のしたいことは何か。こんな風に初心に戻ることで、やる気は大幅にアップすると思います。1日5分でいいので、自分と向き合う時間を作って下さい。3年生の皆さんにとって、無駄なようで実は無駄ではないと思います。

1年生・2年生の皆さんは、是非とも読書をして下さい。

さきほどの『働かないアリに意義がある』は著者:長谷川英祐、メディアファクトリー新書です。もう一冊紹介しておきます。時代小説です。『春風ぞ吹く』著者は宇江佐真理、新潮文庫です。江戸時代、旗本ではあるけれど、官職のない武士がいました。働かないアリと同じで「いざ」という時の要員です。フリーターのようなもので、収入が少ないので、当然アルバイトもしています。そんな主人公が、官職に就かないと幼馴染と結婚もできないので、学問吟味という科挙のような試験に合格することを目指すという話です。バイトが忙しくて受験勉強に身が入らないというのは、どこかで聞いたような話です。主人公はのんびりしていますが、人のために一生懸命に行動します。それが人との縁を広げ、運が開けていきます。これも、直接役に立たない無駄に思えることが逆に役に立つということです。

これから始まる夏休みに、是非とも、すぐに結果がでないことに時間をかけてみて下さい。ただし、これから受験を控えている3年生は1日5分にしておいて下さい。これで終わります。

 

①『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書) 長谷川 英祐(著)777

『春風ぞ吹くー代書屋五郎太参る』(新潮文庫) 宇江佐 真理(著) ¥578