第三十五回 卒業証書授与式 式辞(H25.3.4)

 

第三十五回 卒業証書授与式 式辞

なかなか春の兆しが感じられない厳しい寒さが続きますが、本校の中庭の梅はもう立派に咲いていて、この卒業式を祝ってくれているようです。

本日ここに、大阪府立高石高等学校、第35回卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、大阪府教育委員会ご代表をはじめとして、多くのご来賓のご臨席を賜り、心からお礼申し上げます。

保護者の皆様、おめでとうございます。本日まで本当にさまざまなご苦労がおありだったと推察いたします。ここまでお子様方をしっかりと育まれてこられたことに、心からの敬意とお祝いを申し上げます。

卒業証書を授与いたしました卒業生の皆さん、いよいよ卒業です。おめでとうございます。高校を離れて皆さんが過ごすこれからの人生では、思いもよらぬ事態に遭遇することがあります。思いもよらぬ事態とは、地震や津波という天災だけでなく、人を怒らせたり、自分が攻撃されたりということも含まれます。そしてどうしていいかわからなくても、必ず何らかの判断を下さなければならないのです。もちろん導いてくれるマニュアルなどありません。

ただ、どうしていいかわからない緊急事態においても、正しい判断を下している人がいます。先の大震災での想定をはるかに超えた津波にも、正しい選択で最悪の事態を回避した人がいたように。

フランス哲学者の内田樹氏は、「邪悪なものの鎮め方」という本で、どうしていいかわからないときでも、「礼儀正しさ」「身体感度の高さ」「オープンマインド」があれば、正しい選択ができると述べています。

具体的にこれらが何を意味するのか、私なりに考えてみました。

「礼儀正しさ」、これは謙虚に誠実にふるまうことで周りに対する敬意を示すことです。不思議なことに、困っていると、助けてくれる人が現れるものです。傲慢で目先の利益で動く人より、謙虚で誠実な人の方が、助けを受けられる可能性が高いということを、皆さんも経験上理解できると思います。

「身体感度の高さ」、これは見ているもの・感じているものを意識につなげるということです。非常ベルが鳴ってすぐに避難する人と、それが誤報ではないかと次の情報を待つ人の間には約3分間のタイムラグがあり、この3分の差が生死を分けると言われています。他人の様子を見てではなく、状況を見て自分で判断し行動できるのは、「身体感度の高さ」以外の何物でもありません。

「オープンマインド」、これはいろいろな意見を受け入れるということです。しかし恐怖や自分の望まないことに直面すると、現実から逃れるために、人は時としてアドバイスを無視してしまうことがあります。オープンマインドでいるということは、「現実を受け入れる想像力」を持ち続けるということです。

これら3つを身に着けるには、どうすればいいのでしょうか。私は特別な訓練は不要だと考えています。混んだ電車の中で、すぐ降りないのにドア付近に立って、混雑に拍車をかけている人がいます。行動健康科学コンサルタントの川西由美子さんは、こういう人たちには、①他人を思いやれない、②まわりを見ているようで実は見えていない、③奥に進むために「通ります」「すみません」などと、コミュニケーションをとる技術がない、という特徴があると分析しています。この3つの特徴は、内田樹氏がいう「礼儀正しさ」「身体感度の高さ」「オープンマインド」とまさに同じものです。つまり、日々の生活で一つひとつの場面を大切に過ごしていれば、この先思いもよらぬ事態に出会って、どうすればいいかと判断を迫られても、正しい選択をする力を鍛えることができるということなのです。

「勉学、部活動、学校行事の三分野すべてに情熱をもって取組み、しかる後に自分の希望する進路に到達する心爽やかで逞しい生徒を育成する」という高石高校の教育目標のもとで三年間を過ごしてきた皆さんには、これらがしっかりと身についています。

「礼儀正しさ」は、毎日の生活を大切にするという形で現れます。毎年遅刻回数を大きく減らし、毎朝きちんと挨拶ができる皆さんには、「礼儀正しさ」は充分に備わっています。

「身体感度の高さ」と「オープンマインド」は、周りをしっかり見て、見たものの価値を自分で判断できる力があるということです。皆さんがリーダーとなった昨年の体育祭の応援団は、体育祭が終わった後、裏方として支えていただいた生徒会の先生方に、下級生も連れて全員で、花束を渡して感謝の気持ちを表しました。皆さんには、裏方の仕事の大切さを理解し、感謝の気持ちを表す行動力があります。

それでもこの先、思わぬトラブルでストレスを感じ、正しい判断が下せないと感じることがあるかもしれません。そんな時は、高石高校でのいろいろな出会いや経験を思い出し、自分に自信を持って判断して下さい。それはきっと適切な判断に違いありません。

そして今度は、皆さんの後にやってくる後輩たちに、適切なアドバイスをしてあげてほしいと思います。これから船出する海が、皆さんをさらに鍛えてくれることを祈ります。卒業おめでとうございます。

平成二十五年 三月四日 

大阪府立高石高等学校 校長 渡邊和也