朝の貴重な時間

朝の貴重な時間をいただき、全校生徒にメッセージを送りました。以下がその全文です。

 おはようございます。週の始まり7時間授業の日の貴重な朝の時間をいただき、生徒の皆さん、先生方、ありがとうございます。みなさんに質問です。「あたりまえ」の反対の言葉ってなんだかわかりますか?答えを考えながら話を聞いてくださいね。

 約20年前に、「日本に一つしかないいい学校を作る」を合言葉に、新校立ち上げのプロジェクトに携わりました。毎日朝早くから、夜遅くまで寝る時間を惜しんで取り組みました。一番理想を語り合い、支えあった仲間の先生はあまりにもタフな毎日の中で、無理に無理を重ね、病に倒れ、帰らぬ人となりました。毎日ともに過ごし、言葉を交わしていたのに、彼の病状を察することができませんでした。棺の中の彼が愛用する辞書を見て言葉もなく、涙することも、詫びることもできず、ただただ顔を見つめることしかできませんでした。そして、その時、心の中に浮かんだのは『「日本に一つしかない、いい学校作り」は自分が引き継ぐから安心してお休みください。』という言葉でした。そしてその思いはその時以来ずっと、心の中で今も抱いている思いです。

 4月1日に芥川高校に赴任。皆さんと触れ合えたのは、始業式、入学式、そして朝の校門での挨拶だけです。この約3週間の中で私が生徒の皆さんにお願いしたこと、府の通知を受けて、行事の延期、規模の縮小、部活動の活動時間の削減、あるいは休止。生徒の皆さんの思い、そしてその思いを伝えに来る先生方の思い、そのすべてを、診断し、判断し、最終的には校長である私が決断をしています。「日本に一つしかない、いい学校づくり」とは程遠い毎日の決断です。診断、判断、決断、なぜ、心の中に負担があるのか。この数週間考えて、わかったことがあります。それはどの言葉にも「断る」という文字が入っており、結果、みんなの思いを「切断」しているからです。では、「いい学校を作りたい」はずの私は、なぜこんなに心が苦しい思いをして「断る」という選択をしているのでしょう。

 少し協力してください。頭の中で描いてください。あなたにとって一番大事な人は誰ですか?顔を思い浮かべてみてください。彼女、彼氏、友達、お母さん、お父さん。祖父母。いろんな人が、頭の中で受かんでいますね。私が期待した答えは、「あなた(自分)自身」です。みんなそれぞれ自分自身が一番大事で、そして同じように、あなたの目の前、あるいは周りにいるすべての人がその人自身を一番大事にしている。だから自分自身と同様に身の回りの人を大切にしなければいけないと思えるようになってほしいのです。目の前で話す友達には、大切にしているおばあちゃんが、目の前で笑ってくれている先生には、生まれたばかりの赤ちゃんがいるかもしれない。目の前にいる人たちと、その人が大切にしている人たちを大切にするために、今まで「当たり前」にできたことに制限をかけなければならない。私が、この世を去った仲間の先生に、もっと心配りができていれば、今も一緒に仕事をできたかもしれない。そう思うと悔やんでも悔やみきれません。

 今、直接語り掛けることができる皆さんの命、そして皆さんの行動が変わることで救える命、医療に従事している人たちの負担を少なくすることで救える命。その命を大切にすることを一番に考えたときに校長である自分が「決断」をしなければならないと腹をくくりました。

 4月15日の夕方、明るい空のもと、誰一人生徒のいない学校。廊下を歩き、グランドを眺め、昨年を思い出し、心が痛みました。引退試合に臨むことなく、クラブをやめざるを得なかった昨年の春。それは2度と繰り返してはいけない。そのために、活動を縮小して、行動を変え、試合に臨める状況を作ることに全力を尽くそうと決意し、今こうやってお話ししています。状況は日に日に厳しくなっています。

 ここで、再確認です。行動を変える(あるいは継続する)「まみむめも」 です。

ま、マスクをつける。

み 、密を避ける。

む、無言。マスクをつけられない時にこころがける。だからこそ微笑んで見つめる。校門であいさつをしてくれるみんなの目の表情に毎日勇気をもらっています。

め、目の前の時間を大切にする。限られた時間だからこそ、計画を立て、有効に活用する。

も、目標の設定、そしてこまめな設定変更。何が起こっても前へ進めるよう常に小さな目標を立てる。

 さて、冒頭の質問です。「あたりまえ」の反対は何ですか?ある学校の先生が教えてくれました。「ありがたい」が正解です。コロナ以前は生徒が学校に来て授業を受けるのは「あたりまえ」でした。今は40人で授業ができて「ありがたい」。クラブが思う存分できるのは「あたりまえ」でした。今は、1時間でもクラブができて「ありがたい」。マスクをつけるのは「あたりまえ」。「あたりまえ」のはずのことに「ありがたい」と感謝することで、次の可能性を見つけていきませんか。お互いが、お互いに対して「マスクをしてくれてありがとう。」「黙食をしてくれてありがとう。」「私の心の声に耳を傾けてくれてありがとう。」

ありがとう、労わり、癒し、労う言葉をかけあいながら、みんなで支えあってこの苦しい状況を乗り越えていきましょう。みんなの一人ひとりの力を差し出してください。

しかし、このメッセージを過去のものとするくらい著しい速さで状況は変わろうとしています。さらに、厳しい対応が迫られることが予想されます。前を向いて進むしかない、そう思っています。