本当に価値のあるもの

                ~ 後期始業式講話 ~

終業式でことばの大切さ、情報の交換の大切さを話しました。しかし、ことばには大きな限界があるのです。それは一度発せられると、あとは消えてしまうことです。地震や津波の記憶も、子から孫へと伝えられているうちに、いつの間にか途絶えてしまいます。そこで、人間は文字を作りました。経験や研究内容を文字で記録し、次の世代はそれを出発点にし、記録を積み重ねて現代文明を作りあげたのです。その道のりは、紙の発明や印刷技術、現在のUSBメモリーへとつながっています。

 

そんなことを考える中で、TVである番組を観ました。それは、太平洋の赤道近くにあるカロリン諸島の人々を描いたものでした。ある時、彼らは隣の島が台風で被害を受け子供の食糧が不足しているというのを知り、文字通り助け舟を出そうとしたのです。隣と言っても160キロのかなた、大阪から岡山くらいあります。その荒波が渦巻く外洋を、手作りのヨットで渡るのです。ヨットにはGPSやレーダーも、エンジンもありません。位置は星座と波風の様子で知り、動力は風だけが頼りです。彼らは、燃料が切れたら動力船はただのガラクタだと言います。

その島に渡る乗組員が指名された後、若い人たちは長老から星座の見方を教えられていました。赤道に近い辺りは、年中星座が一定です。長老は船の模型を中心に小石を30個くらい円に並べてから、星座の名前を皆で声を上げて読み上げさせ、暗記させました。この記憶が彼らのGPSでありレーダーです。

結局、彼らの船は荒波の中を時速20キロで航海し、夜出発して朝には目的の島に到着しました。しかし彼らは星座をなぜメモしなかったのでしょう。紙がないわけではありません。それは海の上で水をかぶったり、風で飛ばされたらすべてを失うことになるからだ思います。乗組員が一人でも生き残っていれば、記憶を頼りに目的地につくことができます。頭に叩き込んだ知識や体で覚えた技術は、間違えなく一生使えるのです。これは人間だけの大きな力です。電池の切れたスマホ、ガソリンが切れたバイク、モーターが壊れた機械の空しさを考えてください。

 

 今、我われがこの学校で学んでいるのは、一生使うことができる使っても使っても減らない、いや使えば使うほど磨かれる知識や技術です。身につけるのにはしんどいこともありますが、真摯な姿勢で学ぶことを希望します。