ここ何日かの温かさから一転、寒さがもどり、身が引き締まるような今日の佳き日、晴れの入学式を迎えました。
新入生のみなさん、本日は大阪府立茨木工科高等学校・定時制の課程にご入学おめでとうございます。あわせて関係者のみなさまにも心よりお祝いを申し上げます。先ほど、21名の新入生の入学を許可いたしました。教職員一同、みなさんを心から歓迎いたします。
さて、先日ある大学の学長が入学式の式辞で「スマホをとるか大学を取るか」、と学生に迫ったことが話題になっています。たくさんの本を読み、教養の基礎を作り上げ、友人と人生を語り合うべき大切な時間を、スマホ相手に浪費すべきではないという意味だと思います。私も大賛成ですが、私はむしろ、スマホを道具として使いこなすことができる人になって欲しいと思うのです。
歩きながらや自転車に乗りながらスマホを操作している人を見ると、私は、スマホが人間を支配し奴隷にしているように見えます。それで事故が起きても、スマホやアプリは責任を取ってくれません。人工知能がこれ以上発達すると、人間がコンピュータの奴隷になると心配する人がいますが、私は一部分では、すでにそうなっているのかもしれないと考えるようになってきました。スマホを捨てることより難しいことかもしれませんが、スマホの奴隷にならないよう、身の回りの一つの道具として使いこなす力を身につけてほしいと思います。
では、われわれがスマホのような道具に振り回されずに、自分の人生の主役になるにはどうしたらよいのでしょうか。社会を構成する一員として、社会を支え貢献できる人間になるにはどうしたらよいのでしょうか。私は、一人一人が自分の得意な分野、好きな仕事を見つけて続けることこそが、生きがいのある人生や社会貢献のもとだと考えています。では次に、自分が好きなこと、興味があることをどのように伸ばしていけば良いのでしょうか。
私が尊敬する先輩の先生の話が参考になると思います。その方は高校時代まで陸上競技の選手でしたが、大学に進学してから、もともと興味があった柔道を始めたというのです。相当遅いスタートです。部にはどんな技も完ぺきにマスターしている天才的な選手もいて、とてもかなわないと考えたその方は、一つの技だけを徹底して練習したといいます。そうするうち、2年後には初めとてもかなわなかった技のデパートのような選手に少しずつ勝てるようになり、さらに一つの技がどんな状況でもかけられるようになると、他の技も自然に会得できたといいます。そして入学時に一番弱かった選手が、卒業するころには一番強い選手になっていました。
これはどういうことでしょうか。一つの技を身につけたことによる、この技ではだれにも負けないという自信も強さの秘密だと思います。また、こうも考えられないでしょうか。80点の技をたくさん持つより、ひとつだけでも100点を持っていると、そのような高みに立つと見える世界が違ってくるということではないでしょうか。一つのことを究めるということは、より深いものの考え方、より良い生き方を手に入れるということだと思います。これは芸術家や職人をはじめ、どのような分野・仕事にも通じることでしょう。どうか、新入生のみなさんには、その「一つ」を本校の多様な学習の中から探し出してください。
本校は原則として4年間のカリキュラムで授業を行います。焦らず、じっくりと、毎日一日一日を大切に生活してください。1年後、2年後にふと、自分が成長していることに気付く日が来ることと思います。
結びにご来賓の川口様にお礼を申しあげますとともに、ご列席の皆様のますますのご発展を祈念し、祝辞といたします。
平成二十七年四月八日
大阪府立茨木工科高等学校 定時制の課程
准校長 小河原康雄