11 季節感のある和歌の鑑賞

昨日の新潟などでの地震に際しまして、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。昨年の大阪の北部地震から1年近く経ちます。新聞記事等ではまだまだ完全とはいかないけれども、各方面で全力をあげて復興に向けて取り組んでいるということが報道されています。

いよいよ夏本番が近づいてきました。日本は四季がはっきりしている地域が多いので、古典や文芸作品にもそれを反映しているものがたくさんあります。別のところにも同じ和歌を扱って文章を書いたのですが、今回は上高生のみんなに読むだけで涼しい感じを得ることができる和歌を一首紹介しておきます。私は和歌が大好きです。想像力を働かせて、詳しく読み解いてみると、短い表現のなかに大変美しく奥深い心の動きなどが込められているからです。この和歌は藤原清輔という人が詠んだものです。「新古今和歌集」という勅撰和歌集に載っています。

 おのづから 涼(すず)しくもあるか 夏衣(なつころも) ひもゆふぐれの 雨のなごりに

この歌には掛詞の技法が用いられているのですが、上高生のみんなはわかるでしょうか。「ひもゆふぐれの」の部分です。「ひも」には「日も」「紐」、「ゆふ」には「夕」「結ふ」が掛けられています。「紐」というのは歌の中にある「夏衣」についている服を結ぶための「ひも」のことでしょう。或る夏の夕暮れに着物の紐を結ぶわけです。「雨のなごりに」とありますから、直前に夕立があって、空気が涼しく感じられるころ、この人物(作者自身かもわかりませんし、架空の人物かもわかりません)は宮中での勤めを終えて夏用の衣に着替えたのではないでしょうか。雨上がりに服を着替えて、ひもを結び終わって「ああ、すずし」とホッとしている姿が思い浮かびますね。

二句目が最後に「か」があるので八音の字余りになります。声に出して、読んでみてください。音が余るぶん、ゆったりとした調べと直後の余白が形成されて、心静かに涼しさを味わっている感覚がよく伝わります。五句目の「雨の名残に...」という語感も余情があります。「雨」という日常の題材を扱っていますが、いぶし銀のような表現で美しく感じます。「いい時に夕立が降ってくれたわ...、おかげで涼しうなって...、ええ雨やったなあ...」という感じでしょうか。

「源氏物語」など古典作品を読んでいても、京都の変わりやすい天候の描写がよく出てきます。ざっと雨が降ったかと思うと、すぐに薄日がさしたりします。特に山沿いはそうだったでしょうから、この人物は東山の近くに住んでいたのかもしれませんね。

都会では「季節感」を失いがちです。それに暑さを感じると、イライラした状態に陥りがちです。現代は気温の上昇もあって、熱中症対策には万全を期する必要があることもたしかです。それだけに一層、たまにはホッとひと息入れて、昔の人の残した優美な言葉による表現を味わう心の余裕も持ちたいものですね。

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