朝の雨

朝、出勤時、通学時間帯だけは、雨に降ることを我慢するようお願いしている。梅雨のこの時期は特にお願いの頻度は高く、程度は強くなりがちである。

願いもむなしく、昨日の朝は雨。傘を差しながらの校門でのあいさつ。通用門でも、正門でも自転車で通学する生徒にとっては上り、下りの差はあるが坂の途中に芥川高校がある。懸命に登り切って到着するもの、心地よく門を通り過ぎるもの様々だ。雨合羽から雨のしずくを滴らせながら、登校する一人ひとりに「おはようございます」の声をかける。普段は猛スピードで過ぎ去る人たちも、この日は少しゆっくりで、それゆえに、お互いの「おはようございます」が行き交う機会が多かった。さらに、徒歩通学を余儀なくされた生徒たちは、普段よりも各段にゆっくりとすれ違う時間があったので、挨拶の言葉のやり取りにたくさんの笑顔を添えて通り過ぎていった。こんなに心のやり取りができるのなら、雨も悪くないと思い始めた矢先、大粒の雨が地面をたたき始めた。傘は頭を守るだめだけの道具として働き始めた。

雨がどんどん強くなり、傘が役に立たなくなるのではないかと思い始めた時、門の前に差し掛かった一人の男子生徒がつかつかと歩み寄り、声をかけてくれた。「すごい雨ですね。」と男子生徒。「ほんまやね。(教室まで)気を付けてね。」と私。進みかけた彼は振り返り、「そちらこそ」と返してくれた。思わず出た言葉のようだった。彼はそのあとしっかりとした足取りで、足早に下足室へと向かっていった。

大雨の中、わざわざ歩み寄り、足を止めてかけてくれた、たった5文字のひらがなは、ぐしょぐしょになった靴下を乾かすくらい温かい風を吹き込む言葉でした。足の小指が温まりました。ありがとう!