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55 もっと歴史に興味を持ってみよう ~梅原猛哀悼に寄せて~

先日、梅原猛(うめはたらけし)という学者の訃報が伝えられました。梅原さんは哲学が専門なのですが、むしろ日本古代上代の歴史についての著作などで一世(いっせい)を風靡(ふうび)した方です。今回は、上高生に向けて、梅原さんの考えなどを紹介することで、歴史というものに関心を寄せてほしいということを述べます。歴史的な教養を身につけることも豊かな人生を送るための社会的な力として意識してほしいと考えています。

私が初めて読んだ梅原さんの本の題名は『隠された十字架』です。高校3年生くらいだったと思います。てっきりキリスト教のことを扱った内容かと思っていたら、聖徳太子(しょうとくたいし)すなわち厩戸皇子(うまやとのみこ)と法隆寺のことを書いた本だったので驚きました。読んでみて、またびっくりです。あの法隆寺が聖徳太子の怨霊(おんりょう)を封じ込めた寺だというのです。法隆寺は日本が世界に誇る最高の有形歴史文化遺産の一つです。

聖徳太子の子孫にむごい最期を遂げさせ、根絶やしにしてしまった。太子は生前には超人的な力を発揮した人物なので、祟(たた)り神になったならば恐ろしい怨霊になるにちがいない。太子一族を滅ぼした権力者たちはそう考えて、法隆寺を怨霊を鎮めるための寺とした...。たしかに、天神となった菅原道真など、日本ではすごい力を持ちながら、強い恨みや怒りを抱いたまま亡くなったと思われる人物を尊い神仏として祀(まつ)ることで、為政者(いせいしゃ)がかえって権力の安泰(あんたい)を図った歴史があります。梅原さんの考えも基本的にはその応用なのですが、はたして真相はどうか。この本の影響は大きく、真相をめぐって大論争になりました。真相はどうかわからないが、読んでとにかく面白い。人間の暗い情念がすさまじいエネルギーとなって歴史を動かしていく様子を生き生きと情熱的な文章で書かれていて、私も非常に魅了されました。のちに民俗学に興味を持ったのも、梅原さんの著作に親しんでいた影響があると思います。

今の自分の生活を大切にして、その生活を取り巻くものについてしっかりとした知識を持つことが大切なのは言うまでもありません。しかし、その今の我々の生活はどのようにして作られてきたのか、かつてどのような生き方をした人々によって現在のこの世界が築かれているのか、ということを知ることもとても大切なことです。歴史は実はくわしく知れば知るほど面白い。想像力をはばたかせて、その状況でその人物がどう考えて行動したかを推察する。すると、そこに見えてくるのは、やはり今の我々と同じくその時々を精一杯生きる人間の姿です。しんどくてつらい状況のなかで、それでも前を向いて何とか生きようとする人々のあり方です。そこにいるのは自分と同じような思いをしている人だ...歴史は鏡となって現在の自分の姿を反省させてくれます。

上高生のみんなに、ぜひ歴史に親しんでほしいと思います。梅原さんは逝去されましたが、その著書はこれからも歴史に興味を抱く多くの人々を魅了し続けることでしょう。著書の多くは文庫化されています。今の高校生には少し難しいかもしれませんが、関心のある人は読んでみてください。

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