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42 クリスマスツリーと門松(かどまつ)【行事の飾りの民俗学】

堺上高校生のみんなはクリスマスや正月の風習というと、どのようなことが思い浮かびますか。たとえば、クリスマスツリーと門松って似ているな、と思ったことはないでしょうか。

クリスマスが近いですから、街のあちらこちらでクリスマスツリーを見かけます。気が早いところはハロウィンが終わった次の日からツリーを飾り始めています。日本でクリスマスツリーが盛んに飾られるようになったのは、大戦後からでしょうが、めでたい行事の時に木を飾る習慣は正月の門松飾りがすでにあったので、あっという間に普及したのかもしれません。

クリスマスツリーにはいろいろな飾りを付けますが、最も象徴的なのはてっぺんに付ける星形の飾りです。さて、上高生はどんなかたちをしているか、覚えていますか。ほとんどのものは先端が五つあるかたちをしているはずです。これを五芒星、ペンタゴンと言います。イエス・キリストが生まれた時に、東方の三人の博士を生誕地ベツレヘムまで導いた星があり、それに由来してツリーの先端に付けられているそうです。もっとも、本来はこれは八芒星だという説もあります。ただし、先端が八つのかたちは作るのも書くのも大変そうです。

五芒星は日本の陰陽道を象徴するマークとしても使われていて、京都一条にある晴明神社に行くと鳥居に立派な五芒星が輝いています。様々な意味がこのかたちには込められていることは洋の東西を問わずに共通しているようです。たとえば、大文字焼の「大」の字も先端が五つですから、関係があるという文章を読んだことがあります。また、米国にはペンタゴンという名前の重要な建物があります。ちなみに、陰陽道では五つの先端は木火土金水を表しているということです。星は陰陽道にとって、とても大切な意味を持っています。

ユダヤ教に関係するところでよく使われているのは六芒星です。ヘキサゴンと呼ばれます。以前にクイズ・ヘキサゴンという番組がありましたが、番組名は18人の解答者を「6」人ずつの3チームに分けていたことに由来すると思います。もし、解答者を5人ずつに分けていたら、クイズ・ペンタゴンになっていたはずです。

さて、もともと日本には正月に門松を飾る風習がありました。なぜ門松にせよ、クリスマスツリーにせよ、常緑樹をこの時期に飾るのでしょうか。端的に言うと、冬が終わり春がやってくることを祝って、つまり春の祭りの時に常に緑をたたえている樹木を飾るということが広い地域で行われていたらしいのです。昔の人々にしてみれば、多くの木は秋から冬にかけて葉が枯れて落ちてしまうのに、ずっと緑を保っている木があることを不思議に感じたことでしょう。そのパワーが聖なるものと結びついていると考えても当然だと思います。門松は主に松と竹で作られています。松は「まつり」に通じる、竹は伸びるのが速いので成長に通じる、などめでたい木だとされています。「松は千歳(せんざい)を契(ちぎ)り、竹は万代(ばんだい)を契る」という言葉もあります。松は千年間を約束し、竹は万年にわたる世を保証する。つまり、永遠の幸せを請け負ってくれる、ありがたい木だということになります。

聖なるものは高いところの先端をめざして降臨するというイメージが我々にはあります。日本では歳神(としがみ)が門松を目印にしてやってきて宿る、というふうに考えられてきました。聖なるものが宿る存在のことを「依代(よりしろ)」と言います。キリスト教は一神教ですが、精霊や天使がツリーをめざして集まるイメージ画はよくありますね。正月の間は門松は神が宿る聖なる木です。逆に言うと、どれほど立派な門松でも一年中飾ることはしません。毎年新しい門松でお迎えするのが原則です。とはいえ、ツリーにせよ、門松にせよ、毎年新しいものを用意するのは大変なので、木以外の素材の同じものを繰り返して使っているところが多いのが現状でしょう。大切なのは季節を祝ったり、聖なるものをお迎えする気持ちなのであって、そこらへんは聖なる存在たちもわかってくれているはずだ、ということなのかもしれませんね。

特定の宗教や信仰を離れても、クリスマスにはツリーを見てウキウキしたり、神秘的な感じを覚えたりする。正月には門松を飾って気持ちを新たにする。これらを飾る風習が我々の生活と精神に貴重なリズムを与えてくれているという点をあらためて認識します。上高生のみんなもこういう機会にそういうことを意識してみてくださいね。