• トップ
  • 2020年
  • 3月
  • 73 事実の把握とその情報にもとづく推測について ~情報教育の効果を~

73 事実の把握とその情報にもとづく推測について ~情報教育の効果を~

他国、日本国内を問わず、「欧米をはじめ、世界中でこれほど感染が広がっているのに、日本の罹患者数が少なすぎる。これは日本がきちんと検査を実施していないからにちがいない。本当はもっと感染している人間が多いはずだ。」という声があるようです。そもそも、ここに書かれていることは事実でしょうか。いいえ、これは事実に基づく推測です。情報には精度が求められます。正確さですね。その精度の度合いは、何に関する、どういう状況で必要とされる情報であるかによって異なります。

家でラーメンを作る時には、火力はたとえば「中火」、時間は「3分程度」という情報でいいでしょう。加熱する温度と時間にそれほど神経質になる必要はありません。しかし、科学の実験で加熱する時にはそうはいきません。簡単な実験でも「液体が90度を保つ状態で360秒」加熱するというレベルの情報の正確さが必要になります。

一連のコロナウイルス関連の情報ではどうなっているのでしょうか。テレビの関連番組を見ていると、感染者数の状況やこの病気の性質、予防対策、国や自治体の反応をとりあげて、感染症専門家とされる学識経験者や番組コメンテーターの意見などを放映しています。事実の部分に関しては、どの番組でも正確な情報を流していますが、それに基づく意見のところでは、あたりまえですが、様々なコメントがされています。その場合に、事実に基づいて加えられるコメントにも精度が求められるはずです。特に、今回のような社会全体に大きな影響を与える感染症に関しての場合などは、電波にのる状況で、いい加減な放言はしてはいけないと思います。

クルーズ船内での感染が取りざたされていた頃までは専門家のコメントも「あまり心配する必要はない」というものが主流でした。現状からわかる事実と自分のこれまでの経験などから考えて、このウイルスもそれほど恐れることはない、と判断されたのだと思います。けれでも、数か月たって、このありさまですから、それらの楽観的推測ははずれました。原因は二つです。ひとつは、示されていた事実が間違っていたこと。初期に他国で流行っている時の、その伝えられる情報が政治的な歪曲などを加えられてしまい、正確ではなかったのだと思います。不正確な事実に基づいて行われた推測が間違うのは当然です。もう一つは、専門家にとっても、これまでの経験知による憶測では想定できない未知の要素が多かったということでしょう。印象的にはかえって、その頃から不安や恐怖を口にしていた素人のコメンテーターたちのほうが正しかったような印象を受けます。しかし、それはたまたま彼らが口にした言葉が結果的に現実に合致したにすぎません。正確でない事実に基づく憶測でコメントしたのは専門家と同じです。

現在の日本の教育現場では、「情報教育」にとても力を入れています。こういう時こそ、その効果を発揮すべきでしょう。正確な事実は何か、そしてそこから現時点で可能な範囲で推測できることはどういうことか。それを各自がしっかりと考えて行動していくことが大切です。私自身は情報教育を受けたことがありませんが、ためしに冒頭で述べた「本当はもっと感染者数が多いはずだ」という推測について考えてみましょう。

まず「もっと」というのがどの程度の数をイメージしているかをはっきりさせねばなりません。2、3人でしょうか。2、3人とすればこの推測の精度はかぎりなく高くなります。しかし、何十万人となってくると、どうでしょうか。

お亡くなりになった方がこれほどいらっしゃるというのは本当に痛ましいことですが、連日のニュースでは、この感染症による各国の死者数を報道しています。昨日のニュースを見ていると、大流行している国と日本とでは死者数のケタが違います。日本で50名弱、イタリアで7500名、スペインで4000名くらいです。現代の日本や欧米で死者数をごまかすのは難しいですから、これは信頼できるデータ数でしょう。旧称で先進国と言われていた国でも医療の条件が一律ではないので(医師数、保険制度のありかたなど)単純な統計的比較はできませんが、死者数は感染者全体から一定の割合で発生するはず(高いイタリアで10%弱、低いドイツで0.4%、その他の国現状をみて考えてみる必要がありますが)から、死者数から感染者数を推測することはある程度の精度でできると思います(本当は数値のデータとして人の死を扱いたくありませんが、できるだけ正確な推測に基づいてこの状況を乗り越えていくためには必要なことです)。それでいくと、今のところ、日本の実際の感染者数が報道されているよりも、何十万人規模で多いということは考えにくいと思います(大阪府の人口で約800万人です)。

あくまで私の素人判断でいくと、現時点では日本全体では爆発的な広がりをみせていない、と推測されることになります。個人的には、潜在的に大流行になっていると恐れる必要はないと考えています。ただし、致死率1%と想定しても、5000人くらいの感染者はいるということになるので、現段階の約1400名という報道数は少ないとも考えられます。2パーセントとして1万人です。数字が万単位に乗ってくると怖い感じが強まりますが、42都道府県で平均して2~300人でそのくらいです。ふさわしい精度で示されたのではない、いい加減な憶測にふりまわされるのには注意しなければならないということです。

油断禁物という言葉がありますが、関東圏では感染者数の値が急に頭をもたげました。原因として前の3連休での浮かれ気分を批判する声がありますが、罹患から症状が出る期間から推して、この増加は連休以前にかかった人たちでしょう。3連休の結果はもうしばらく後に反映される可能性があります。「自分たちの集まりは大丈夫だろう」という根拠のない楽観的行動が大変な状況を生んでいます。イタリアの都市の首長たちは「人がこれほど死んでいるのに、なぜまだ外出して遊ぼうとするのだ」と悲鳴に近い絶叫をしています。

学校教育の現場に関しては、「後々のことを考えれば、少々のリスクを抱えても授業をしたほうがいい」という状態にならないようにしてほしいと思います。状況によっては、大きな決断をそれぞれの学校でしやすいように、早めに諸条件が整備されることを望んでいます。