風が肌に心地よく感じられる季節になりました。酷暑の夏が過ぎ去り、青天高く澄み切った空が広がるこの時期、自然は徐々に変化しています。山粧う季節の到来も間近です。そんな季節の移ろいの中で、今日から新しい学期が始まります。
今この時節は「実り」の秋とも言われます。春に蒔いた種が、夏の陽射しを受けて育ち、花咲き、実を結び、収穫を迎える秋。これが自然というものですが、皆さんの日頃の学びにも通じるところがあると思います。前期に皆さんが積み重ねてきた頑張りは、きっと何らかの形となって実を結び始めることでしょう。ぜひ、後期は、その成果をさらに進展させ、次のステップへとつなげてほしいと思います。
古代ローマのインフラの父と称されるアッピウス・クラウディウス・カエクスが残した言葉があります。「自分の未来の設計者は、自分自身である」という言葉です。英語では、「Every man is the architect of his own fortune.」と表現するようですが、直訳すると「誰もが自分の運命の設計者である」となります。自分の運命を定めるのは誰でもない自分であり、昨日の努力、今日得た成功と招いた失敗が、やがて明日を含めた将来の自分を創造するのだということでしょうか。自分の人生は、自分自身で切り拓いていくしかないということですね。
また、明治の小説家・英文学者、かの夏目漱石も、その『漱石日記』明治34年(1901)3月21日の中に、よく似た意味の言葉を記しています。「真面目に考えよ。誠実に語れ。摯実に行え。汝の現今に播く種はやがて汝の収むべき未来となって現わるべし。」がそれです。漱石がイギリス留学時代にロンドンで書いたもののようです。「あなたがこれまで、まじめに考え、誠実に語り、真摯に行ったことは、すぐに結果を生まないかもしれないが、近い将来にきっと成果となって現実のものになるはずだ。その日のために今こそ、種をまいておきたまえよ。」と、そう耳元で囁く漱石の激励の声が聞こえてくるような気がします。
実りの秋、味覚の秋、読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋、秋の深まりとともに、日々の学校生活にも落ち着きが感じられる季節となりました。秋の夜長とも言いますが、時間は決して無限ではありません。とりわけ、大きな行事のないこの時期の放課後は、他者に決められたのではなく、自分自身で工夫して過ごすことができる貴重な時間です。部活動に打ち込む人、図書館で読書に親しむ人、自習室で課題に取り組む人、帰宅して趣味に没頭する人。課外でのそれぞれの過ごし方の中に「自分らしさ」が表れてくるような気がします。自分の時間を自分でどのようにデザインするのかが問われるということですね。
皆さんには、この秋、ぜひ、放課後の時間を意識しながら、「自分らしさ」を発見してほしい。仲間と学び合いながら、成長しようとする自分に気づいてほしいと思います。「今の自分にできること」を一つひとつ丁寧に積み上げていってください。堅実に前進することが、やがて大きな成果となることを信じてください。