45 芸術鑑賞の報告 劇団自由人会による演劇を見ました

昨日は午後から泉ヶ丘のビッグ・アイで恒例の芸術鑑賞行事が行われました。昨年度は冷たい雨のなかでの実施だったのですが、今年度は天気にも恵まれての実施となりました。

実施内容は劇団自由人会による演劇で、演目は「夢をかなえるゾウ~青春ロボット編~」です。水野敬也による原作本はシリーズ累計で280万部以上を売り上げている大ベストセラーです。2008年には年間で最も売れた書籍となりました。

この劇のテーマは「愛とは何か」「自分がしたいこと、夢とは何か」「他人のために何かをするとはどういうことか」ということでしょう。そういう直球勝負のテーマを高校生を主人公にして、様々な課題を設定して描いたところに、原作の力があるということがわかります。昨日の劇でも、生徒たちが日常で直面しているような、進路や親子関係などの課題がとりあげられていました。

以前にこのブログでも言いましたが、現代は大人世代が若者世代にアドバイスするのが難しくなっています。スマホの操作技術や情報収集速度などの点では若者のほうが堪能です。肝心の情報を大人が握っていて、それを伝えることで若者に先導役としての役割が果たせていたのが、そうはいかないのです。

しかし、この劇中で主人公に様々なアドバイスを行なうガネーシャ(インドのゾウの神)がそうであるように、生きていくうえでの核心部分については若者は的確なアドバイスを必要としているのです。ガネーシャはけっしてエラそうにもったいをつけてアドバイスすることはありません。それどころか、いなり寿司の見返りを要求したり、相手の言い分のあげあしをとったりして、いわゆる「テキトー」にアドバイスしているように映りますが、大切なポイントははずさずに、上手に主人公が直面する人生の課題にふさわしいコメントをしていました(コメントのふさわしさには、高校生の目線にあわせて、しかも状況をふまえてということが含まれていました)。アドバイスの一つである、何が起こっても「運がいい」と思いなさい、ということなど、適当なようで実はアランなどが幸福論で説いている内容の核心に通じているところがあります。

ガネーシャとは対照的に頑固オヤジ代表に映る主人公の父親にしても愛情のこもったアドバイスを発していた点では同じでしょう。インドのゾウの神様が押入れから現れるという奇想天外な設定ですが、実は現代社会での若者と大人の関わりを考えさせる内容になっています。原作が若者に売れた背景には、本音のところでは人生の本質に関する大人たちからの親身で的確なアドバイスを若者たちが求めていることが反映しているのかもしれませんね。(そういう小説を「教養小説」と呼びます。原作が連作として主人公のその後の人生経験を追いかけている点でもそう言えるのではないでしょうか。)

本校の図書館に原作本がありますので、劇を見たことをきっかけにして、興味がある生徒にはぜひ読んでほしいと思います。

劇団自由人会のみなさん、楽しくて良い劇を見せていただいてありがとうございました。これからも一層の御活躍を願っております。