19 災害に備えるということを個人レベルでも考える

台風15号が関東を直撃し、大きな被害が出ています。被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。広域で停電も発生しています。今回は個人レベルの防災について、考えてみたいと思います。生徒のみなさんも自分の日常に照らし合わせて考えてみてください。

日本社会はこれからいっそうに電化が進むでしょうが、停電の時には電気関係のものは機能しなくなります。たとえば、キャッシュレスの推進がうたわれていますが、全く現金を持たない状態で外出時に停電を伴う災害にあった場合には、ものが買えないことになってしまいかねません。自分の携帯電話に充電されていても、店側のシステムがダウンしてしまっているからです。この暑い時期であれば、外で飲み物が買えないことになってしまいます。だとすれば、いくらキャッシュレスが進んだとしても、いくらかの現金の持ち合わせは必要だということになります。今回の関東でも、すでにキャッシュレスでの支払いしかせずに、現金を持ちあわせずに停電に巻き込まれた方もいるのではないでしょうか。

日本は災害に遭いやすい国だという認識を持って、キャッシュレス時代が到来しても、カバンのどこかに現金を常備しておくなど、一人一人がふだんから備えておくべきでしょう。物事にはメリットとデメリットがあります。普及を進めるほうは、メリットの面を強調しますが、使うほうはデメリットもしっかりと把握して扱うことが大切になります。来るべき日本社会として「ソサイエティ5.0」で言われているような状態までシステムが進歩発展すれば、そもそも大規模停電そのものが起こりえない環境になるのかもしれませんが、現段階では用心するのに越したことはありません。

大きなシステムによる構造化が進んで、いろいろな物事がリンクするのはとても便利です。情報が統合されるので、いちいち手続きをしないでも必要なものごとを利活用できます。しかし、それだけにシステムの要の部分がダウンしてしまうと、その被害損害は莫大なものになってしまいます。そういう時に、「まさかシステムがダウンするとは思ってへんやん!」「システム管理の責任はどないなってるんや!」ということになるのですが、そもそも人間のすることに完璧完全なことはありえません。複雑巨大化するシステムの構造を我々一般市民が知ることは不可能に近いでしょうが、それが機能不全状態に陥った時にはどういう事態になって、どう行動すればよいかを知ることはできます。

厳寒の季節にオール電化の住宅に住んでいて、長期の停電になった時にどうするか。身体の暖をとるのは手立てが多いとしても、乳呑児がいてミルクを温めてあげなれければならないような場合はどうでしょうか。ボンベ式のカセットコンロを常備しているとして、何日間それでしのげるかがわかっているでしょうか。「ふだん使ってへんから、わかるはずないやないか」ということになるのです。でも、それを使う時は「ふだん」ではなくて「ふだんではない時=非常時」なのです。我が国や自治体には定められた防災の日がありますから、そういう時にきちんと点検する。メモ化しておく。被災時は精神的にパニックになりがちです。備えの食糧が何日分あったかなど、とっさに思い出せないことは十分に予想されます。近くの親族からSOSが入って、飲料を分けてほしいと言われたときに、どれくらいなら分けることが可能かを判断しなければなりません。被災時には自分たちも身を守りながら、他人を助けてあげなければならない事態になることがほとんどです。

公の対災害のしくみが機能しだすのには、一定の時間がどうしてもかかります。公が機能する際には所定の手続きをふむ必要があるからです。「大変な時に何が手続きや。さっさと動いてえな。」とよく言いますが、手続きを経なければならないのは「公」の宿命です。みんなで決めたルールに即しているかどうか、それを確認してからでないと勝手なことはできないからこそ、不公平などを避けることができるのです。みんなが困って大変な状態になっている時に、どれを優先するのか。役所の人が自分と仲のよい人たちから助けたらどうなるでしょうか。情報を集めて、手続きを確認して、客観的に優先順位を決めて動き出すことになります。

だとすれば、それまでは、「私」レベルでお互いに助け合いながら、当座をしのぐことがどうしても必要になります。自宅に乾電池電源可能のラジオが一つはあるでしょうか。あったとして、その乾電池は単三ですか、単二ですか。それが何本あれば聴けますか。その本数の新しい電池を常備していますか。「スマホがあって、手動式の充電器があるから大丈夫や。」では、契約している携帯会社の電波システム自体が被災して破損した場合はどうなるでしょうか(災害時ではなくても、大手携帯会社のシステム障がいが時々ニュースになっています)。ラジオであれば、たくさんの局があるのでどれかが受信できれば情報を得ることができます。この停電はいつまで続きそうなのか、配給物はどこに行けば手に入れることができるのか。機能している医療機関はどこなのか。動いている交通機関はどれなのか。公的機関の動きはどこまで進んでいるのか、自分たちだけでどこまで持ちこたえればいいのか。水道水がいつもとは違う臭いがしているが、飲んでも大丈夫なのか。身内や知り合いのいる場所地域はどういう状態になっているのか。

また、マンションのエレベーターが使えない時にどういうルートがあるのか。階段も崩落している状態でそこに人が殺到すれば、どうなるでしょうか。いち早く気が付いた者がそれを他の住民に知らせるにはどうすればいいのか。エレベーターに閉じ込められている人がいる場合にどうするか。管理者の電話番号がエレベーター内に書いてあるから大丈夫でしょうか。では、中にいるのが、自分で携帯を持っていない小学校低学年の子どもだったら、どうでしょう。どうしてあげなければならないでしょうか。

いくら用心していても、思わぬところで問題が起こるのが災害時です。その思わぬところをできるだけ少なくするのが、防災のプロと言われる人たちです。災害発生の仕組みを知ることも大切かもしれませんが、理解しておかなければならないリスクとそれにどう対処するべきかを地域の状態に即してわかりやすく情報提供してほしいと思います。マスコミが注目を集めるために必要以上に大げさに情報を流す場合もあるだけに(それを繰り返すと本当に危ない時に、どうせちょっと大げさに言うてんねんやろ、と避難が遅れたりするので是正が求められます)正確な情報の提供を専門家にはしていただきたいと思います。その正確な情報に基づいて、我々も対災害の用心をしておく必要があります。