言葉はいらない

 小学校5年生の時、時々、話をする友達が(仲間外れ)にされていた。いつも明るく周りに気配りのできる彼が(仲間外れ)をされるような何かをしたとは思えなかった。休み時間、誰とも触れ合わず、ぎゅっと体を硬直させ自分の席に座っている彼のことが気になっていた。いたたまれない気持ちが増していった。

 そうじの時間、思い切って(一緒に帰ろうや)と声をかけてみた。彼は(うん)とうなずいた。帰る方向は逆だった。彼もそのことには気がついていたはず。正門を出ると、ろくに会話もせず、並びながらずんずんと歩みを進めた。気がつけば、彼の家をこえ、隣町にある海まで来ていた。テトラポットの上に腰かけ、夕陽をながめた。彼はなにも言わず、ただ泣いていた。陽もすっかり落ちたので、来た道をふたり(とぼとぼ)歩いた。もう泣いてはいなかった。別れ際に彼は(ぺこり)と頭を下げた。それから、何度も立ち止まり振り返り、互いに相手が見えなくなるまで手を振った。

 次の日、彼は登校し、何事もなかったかのように友人と話をしていた。私とは一瞬、目が合いはしたが、それ以降、言葉を交わすことはなかった。そんな幼い日のことをなぜだか思い出した。

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