各種スポーツ人口の減少は、思いの外速いスピードで進行しています。中でも、スポーツ界を下支えしてきた、中学・高校の運動部活動の衰退は目を覆いたくなる有様です。野球、サッカーなどの人気スポーツでさえ競技人口の減少が問題視されている中、柔道、とりわけ中学・高校の柔道部員の減少は顕著です。高等学校体育連盟柔道部の現状をみれば、選手強化をしている一部の私立高校を除いて、壊滅的な状況であり、府立高校に至っては軒並み部員数がゼロの状況です。
高等学校体育連盟柔道部が主催する、所謂公式戦の記録を辿れば、10年前(2015年)の男子団体Ⅱ部に出場した学校数は34校、今年度(2025年)は複数校合同チームを含む19チームと激減しています。そのような中、三国丘高校柔道部も例に漏れず、今年度は遂に、部員が1名(2年生)のみとなってしまいました。
11月16日(日)には、このような窮地を何とかしようと、世代を超えたOBが集まり、練習会を開いてくれました。直近に卒業したOBは勿論、60歳台後半のOBまで、柔道を愛する方々が柔道場に集まり、柔道衣に着替えて乱取り稽古(試合と同様の形式の練習)をしてくれました。久しぶりに大勢のみなさんの元気な声が響く柔道場は、本来の機能を取り戻したようでした。唯一の現役部員にとっては、父親や祖父くらい年の離れた先輩方です。こんなにありがたいことはありません。身をもって先輩方の熱い思いを感じることができたのではないかと思います。写真をご覧ください。



最近卒業した先輩方も参加してくれました。まずは、写真を見てください。

向かって一番左の先輩は、現役で京都大学に進学し、大学生になった今も京都大学柔道部に所属して柔道を続けています。左から二番目の先輩は、現役で大阪大学に合格しました。右から二番目の先輩は一浪の後今春、大阪公立大学医学部医学科に合格し、医師をめざしています。
柔道部は、彼らのほかにも難関国公立大学への合格者を多数輩出しています。大きな志を抱き文武両道を極めて夢を実現するのが柔道部の伝統です。私は、学校説明会等多くの場面で、中学生や保護者のみなさんに、ロールモデル(目標となる人)を持つことの重要性についてお話ししてきました。三国丘高校を志願する中学生が、「痛い」、「しんどい」と敬遠されがちな柔道を3年間頑張り続け、その上で希望進路を実現してきた先輩たちをロールモデルにしてくれれば、きっと、悔いのない高校生活が送れると思います。
先の校長ブログでこんなことを書かせてもらいました。ノーベル賞を受賞した学者のほとんどが公立高校出身であることに関する私的な意見です。人間、整った(快適な)環境の中で育てば良いというものではなく、決して良いとは言えない環境の中で切磋琢磨して育った人ほど解決困難な課題にも粘り強くチャレンジし続ける資質を身につけることができるのではないか...私はそう確信しています。この意見に賛同していただける方は少なくないと思っています。鍛錬主義のような古い話をしているのではありません。柔道部を含む三国丘高校の運動部活動は科学的根拠に基づいた安全な練習を心掛けていますし、良好な人間関係を保つための努力も惜しみません。
柔道には、他のスポーツと全く違う一面があります。それは、自分と相手の身を守ることから習得するという面です。わかりやすく言えば、最初に受け身を習得するということです。他のスポーツで、ディフェンスの習得を前提としているものはありません。テニスでやバスケットボールを思い浮かべてもらえればわかると思います。受け身は、身を守るためのスキルだけではなく、相手に敬意を払う心を学ぶための教材でもあります。中学校の体育の授業で受け身ばかりさせられたから、柔道は嫌いだという人がいるかもしれませんが、柔道をそんなに一面的に捉えるのはもったいないことです。高校で柔道部に入部したら、柔道の世界がもっと広くて深いことに気づきます。相手に最大限の敬意を払いつつ、投げることや抑えることの醍醐味を味わうことができます。
柔道には、他にもメリットがあります。三国丘高校柔道部に入部した人は全員、卒業までに初段を取得しています。講道館柔道初段は履歴書やエントリーシートに書ける、万人が認める資格です。自分に自信が持てないと悩んでいる人が柔道を始め、黒帯(初段)を取得した後、人が変わったように前向きになったという例はたくさんあります。
ついつい熱が入ってしまい、長文になってしまいましたが、中学生や保護者のみなさんには、柔道部の魅力の一端をご理解いただけたのではないかと思っています。その上で、下の写真をご覧ください。柔道部のOBが一堂に会して、柔道部存続に向けた支援について意見交換しているところです。部員に対する経済的支援や広報活動への協力など様々な意見が出されました。今日のためにわざわざ東京から参加してくれたOBまでいます。熱い議論は長時間に及びました。その結果、1月の初稽古(稽古始め)の時に再集結して動画を撮影し、4月の部活動紹介等の場面で広報活動に活用することなどが決まりました。大人が本気になって母校三国丘高校の柔道部のために議論する様子には本当に感動しました。

三国丘高校には35のクラブがあり、入部率は103%です。しかし、そのかげで部員不足に悩むクラブもあります。今後は、そんなクラブにも焦点を当てた記事も書いていきたいと思っています。