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13 スタートアップ期間2週目に ~エッセイを読む楽しみについて~

 スタートアップ期間の第2週目に入りました。今週は時間割も登校時間も先週とは組み替えての実施になっています。通常授業開始を1週間後にひかえて、準備も急なピッチで進められる予定になっています。本校全体で取り組むオンライン授業の第一回目の試行も先週の金曜日に行いました。

 さて、今回はエッセイを読むことをテーマに書いてみたいと思います。高校生にもこれから生きていくうえで、できれば自分と波長の合うエッセイに親しむようになってほしいと考えています。

 国語の教材としてのエッセイは最近では中途半端な位置づけをされているような気がします。評論文のように根拠に基づいて論理的に書かれているわけではないが、かと言って小説のようにフィクションで一つの世界を創りあげているわけでもない。一編が短くて、筆者が思い付きを適当に記した文章なので、それほど時間をかけて読む必要がない、という程度の感覚で受けとめられてしまっているのではないでしょうか。私の杞憂かもしれませんが、受験の出題傾向のこともあって(エッセイが本文の大学入試問題は少ないのです)、エッセイ教材はあまり取りあげられていないような感じを受けています。

 教科書に掲載されているエッセイが定番教材に偏ったりしているせいもあるかもしれません。エッセイはその時代の時事をテーマにして、直接と間接をおりまぜて核心をつくようなコメントを放つものが多いですから、新鮮さが勝負というところがあります。定番となるエッセイにはすぐれたものがありますが、いかんせん新鮮さという点では魅力が薄いものもあります。しかし、エッセイの書き手は柔軟な発想と自由な考え方でテーマをとらえます。人間は不思議なもので、証拠や論理的な証明を強く突き付けられるとひるんでしまうところがあり、結果として納得されないこともあります。評論文でも根拠解説や論理的展開が長いとかえって警戒心を抱かせてしまう。その点、エッセイはまわりくどいことはせずにズバリとコメントをします。読み手は筆者と同じように自由な発想と思考とをうながされる。

 実は私はエッセイを読むのが好きなのです。この人の文章はおもしろいなと感じた特定の筆者のエッセイをまとめて読むことが多いです。素敵なエッセイストの文章と出会えた時は「発見した」というのがふさわしいような気持ちになります。そのようにして、男女を問わず、これまでいろいろな筆者と出会ってきましたが、最近では須賀敦子(すがあつこ)の文章の良さに引かれました。ああまた、すぐれたエッセイを書く人に出会うことができた、と思いました。(須賀をよく知っている人にしてみれば、何を今さらというかもしれませんが、要はいつ読むかではなく、読書を通じて琴線にふれるような出会いをきちんとするかどうかです。)小説は女性のものを読むことは少ないのですが、エッセイに関しては白洲正子や池田晶子など、片っ端から手に入る本を読んだ時期があります。

 彼女らの文章にも女性ならではの視点があるかもしれませんが、それでいて確固とした人間性を行間にただよわせていてわかりやすく言うと「うん、カッコイイ」と感じさせる書き手なのです。男性に負けまい、おもねるまい、という感じが前面に出た文章を書く人もいますが、白洲や池田はそういう境地を超えていて、非常に魅力的です。「性別ではなくて、人間として勝負しなさい」という凛としたところがある人が、練達の文章にのせて自分の考えを率直に記した文章がおもしろくないはずがありません。須賀敦子の文章も書き手の心の背筋が美しく伸びた姿勢を強く感じさせるものです。

 事情で教科書に掲載されるエッセイは減っていくのかもしれませんが、できればお気に入りのエッセイイストを何人か見つけて、折にふれて愛読することをお勧めします。最後に名前を引いた筆者たちのお勧め本を書いておきます。あげるときりがないので、2冊ずつにしておきます。白洲正子「かくれ里」「白洲正子自伝」、池田晶子「事象そのものへ!」「メタフィジカル・パンチ」、須賀敦子「コルシア書店の仲間たち」「ヴェネツィアの宿」。

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