28 「土用の丑(うし)のうなぎ」という風習について

 今日は期末考査初日だというのに、朝からあいにくの雨です。生徒の登校時間の雨脚も強かったので、大変心配しています。梅雨前線に湿気を供給する源が例年と異なること、大陸の高気圧と太平洋高気圧のバランスも例年と異なること、などが原因でこれほど長期にわたって大雨になっているということです。下校の時間帯にはましになってくれていることを願っています。

 さて、近くなってきたので、今日は土用の丑の日にうなぎを食べる習慣について書きます。法律で決まっているわけではないのに、特定の時期に昔からの定められた行動をすることを「風習」と言います。風習についてはいちいちその謂(いわ)れを探ったりはしないことが多いですが、民俗学という学問では風習の由緒や謂れを研究します。自分が属する集団の行動文化に対して自覚的であることは、特に現代のようにグローバル化が進んでいる社会では大切なことだと思います。いったい、自分たちが意識せずに行っている習慣にどういう意味があるのか。それを知ることはすなわち自分たちの生活を連続する歴史の流れの中で把握するということでしょう。私は堺西高校の生徒のみなさんに、ぜひともそういう方面にも興味を持ってほしいと考えています。

 西高生のみんなは今年の夏の土用の日はいつになるか、知っていますか。7月21日火曜日です。大人の会話を音でだけ聞いて、「ドヨウのヒがカヨウビ?」という風に幼いころに思った人がいるのではないでしょうか。土用というのは陰陽五行の考え方に基づく用語で、季節の変わり目にあたる一定期間のことです。「季節の変わり目やったら、他にもあるんとちゃうん?」と思った人は正解です。年間の季節の変わり目は4回ありますから、土用も4回あります。土用には季節を前に進める働きがあります。つまり、変化を生み出す力があるのです。土からは動植物が生じてきます。生物学の知識がない状態で、土中からセミの幼虫がはい出てきて、木に登り、羽化する状態を見る。あるいは、何もないところから草木が生えてきて知らぬ間に繁茂するに至る。感覚的に何となく「土」のパワーイメージがわかると思います。

 「木火土金水」の五行の中でも、「土」の気はとても大切な役割を果たすのですが、「土用」のなかでも夏の土用は四季のめぐりの中央の中央にあたるものとして、特に重視されます。しかし、この夏の土用は「火」の気に満ちているのです。暑熱の権化である「未(ひつじ)」のパワーが非常に強い。強烈な「火」気は我々の体力を奪ってしまう。熱中症には気をつけねばなりません。五行説ではあるパワーを抑制するためには正反対の性質のパワーを用いればよいとされます。

 土と火を除いた残りの木、金、水のなかで火に対抗するのは、水ですよね。「火」の気の「未(ひつじ)」に対する「水」の気は十二支で言うと「丑(うし)」になるのです。猛烈な暑熱の化身である「火」の気を鎮めることができるのは「水」の気を持つ「丑」の日である。夏の土用のなかにある「丑」の日を大切にして、体のバランスを保とうというわけです。(ちなみに、「金」の気の動きに関わるのが「巳(み=へび)」です。蛇の皮を財布に入れると金運がアップするというわけです。爬虫類皮の財布が人気があるゆえんです。)

 「丑」の日だからスタミナ源は「牛」でいいではないか、と思います。しかし、昔の日本の多くの地域では「牛」を食べる習慣がありませんでした。牛を大切にする、ということで牛をこの日にきれいに洗うということはあったようです。牛の代わりに言葉の頭に「う」が付くものを食べて代用にしようということで、「うめぼし」「うどん」などを食べたようです。「うなぎ」もそうですよね。値段が高騰している「うなぎ」でなくても、「うどん」でもいいなどと主張すると鰻屋さんに怒られそうですが、その鰻屋に助け舟を出したのが、平賀源内だということは知っている人もいるでしょう。うなぎの旬は秋冬です。脂がのるからです。夏のうなぎはまだ脂がのらないので売れ行きが芳しくない。鰻屋に良い知恵はないかと相談された源内先生は、土用、丑の日、「う」の付く言葉の連想で、「うなぎ」の宣伝に結びつけたのでしょう。旬ではないにしても、うなぎはもともとおいしくて栄養価の高い食材です。知識を活用して、旬でない食材を風習に結びつけることで売れるようにしたというわけです。

 昔から伝えられてきた習慣を大切にしながら、暑い時期に体力を回復するようなものをおいしく食べる。それこそは文化的な生活を送るうえでの知恵でしょう。西高生のみんな、興味のある人は陰陽五行や日本の民俗について調べてみてください。来週も考査、がんばってくださいね。

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