70 「かげ」は物陰か? ~冬の和歌を鑑賞する~ ①

 今回は和歌(短歌)をとりあげます。今年はコロナ感染症の関係で百人一首のかるた取りをするのも難しいかもしれませんが、本来であれば日本人が日常でもっとも和歌に親しむのはこれからの時期です。この時期、西高生にも好きな和歌と出会ってほしいと思います。

 さて、日本では古典の時間に和歌を学習しますが、それで和歌を好きになった人はどれくらいいるのでしょうか。詩歌の鑑賞で大切なことは、まずそのリズムになじむことです。何回か繰り返して口に出して読んでみて(そのためには漢字と歴史的仮名遣いの正しい読みと発音を知ることが大切です。)2音と3音の組み合わせからなる5・7・5・7・7のリズムに親しみます。最初は意味がわからなくてもかまいません。そうしていると、何となく「この歌の音のつながりや言葉の響きなんかが好き!」という和歌ができてきます。教科書には歌集別に何首か掲載されているはずですから、どの歌が音やリズムの点から一番好きかを決めてみましょう。

 一番好きな歌について、どういう内容をうたっているのかを考えてみます。音とリズムの向こう側から言葉の意味が立ち上がってくるまで考えてみましょう。その時に知識がないとなかなか立ち上がってくれません。そこで、辞書とか注釈とかで調べてみます。苦手な人が多い古典文法の知識も必要になります。使われている助動詞や助詞によって内容が激変するからです。たとえば、文法で出てくる過去と完了について両方とも「~した」と訳しても大差がないので、区別がつかない人が多いかもしれませんが、普段の生活では我々は過去と完了を違う事象としてきちんと区別して生活しています。親に「何でまた小遣いがいるんや?」と言われて「もう、使っちゃってん」と答える。まさに「~してしまった」という完了のニュアンスを前面に出して訴えかけたりします。

 好きな歌でないと、音やリズムになじまない歌では、こういうことがとても面倒になります。音やリズム、響きへの好感が意味との出会いまでの我慢をもたらすのです。(ただし、学校の古典の授業は一斉なので、個々の生徒の好みに合わせるのではなく、どの歌も一律に解釈していくことになるのですが。)いったん意味が立ち上がってくると、とたんに和歌の内容が立体的になり、その美しい姿や立派な姿に気づくことになります。授業でも私が教壇に立っていた時に生徒が感動していた和歌はいくつかありますが、やはり教師である自分がその立派で美しい姿に感動している歌は、生徒にも共振現象を起こすことが多かったような気がします。万葉集の山辺赤人の「田子の浦ゆ」の歌などがそうでした。美しい海と空、白い海岸風景、そして当時活火山だった立派な霊峰富士。百人一首収録のかたちでは、雪空になってしまい、景色がくすんでしまうので、元の万葉集のかたちのほうがはるかにいいと思います。タイムスリップして赤人と一緒にその状況での霊峰の姿と出会う現場に生徒を連れていくのが、私も楽しみでした。

 和歌の良さを伝えたいあまりに長くなってしまいました。標題の「「かげ」は物陰か?」という藤原定家の和歌について書くのは次回以降にします。

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