本日は午前中に離任式と対面式を行いました。本来は体育館に集合のうえ、実施するのですが密状態をさけるために、今回は放送で行いました。本校から転出した教員からのあいさつのあと、私のほうから来られなかった教員についての紹介をしました。次に、新入生と2・3年生の代表者による対面のあいさつを交換しました。これから同じ学校でともに教育活動に取り組んでいくことになります。学年間のたてのつながりの面でも、有機的に良い人間関係が多く形成されることを願っています。その後は、1年生は新入生オリエンテーション、2・3年生は集会を行ってから授業を行いました。
昨日のブログにも書きましたが、学校近くの緑道の八重桜が見事な満開を迎えています。色が濃く、ボリュームがあるので、あの一足先に咲いていた淡いピンクの桜の後を受けて、いよいよ春の歩みも深まっていく感じがします。以前に他のところに書いたのですが、八重桜というと、百人一首の伊勢大輔(いせのたいふ)という女性の和歌が思い出されます。
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日(けふ)九重(ここのへ)に にほひぬるかな
(拙訳:奈良はかつての都があった歴史的に古い由緒のあるところです。その奈良から見事な八重桜が届けられました。その八重桜が現在の京の都にあるこの宮中で美しく照り輝いているのがしみじみと感動的です。)
奈良から宮中に八重桜が献上されました。献上の使者には歌を詠んで返礼しなければなりません。帝に成り代わり宮中を代表して返礼をするわけですから、大役です。伊勢大輔は歌の名門出身ですが、この時は宮中に出仕したばかりの新参だったと言われています。まだ十代だったようです。本来はあの紫式部が歌を詠むはずだったのですが、伊勢大輔に譲ったのです。
当時の宮中は藤原道長をはじめとする貴族も女房(女官)も文学や歌に関してはそうそうたる面々がそろっていました。その中で彼女は新参にして大役を仰せつかったのです。今年のプロ野球も新人選手に注目が集まっていますが、伊勢大輔はいわば鳴り物入りで入団してきた新人です。そのお手並み拝見ということなのですが、状況的には伝統の一戦の最終回満塁で迎えた場面で四番バッターの代打で出ることになった、という感じでしょうか。和歌の名門という家の栄誉を汚してはならないというプレッシャーもきつかったと思います。結果はその場面で代打逆転満塁ホームランをかっとばした。
和歌の説明には深入りしませんが、いにしえと現在の対比、奈良と京都の対比、八重と九重のつながりなど、和歌の技巧をいやみなく生かして、しかもめでたい内容の歌を詠んだのです。一見、前半は淡々とした言葉ですが(その場の人たちも前半まで詠まれたところでドキドキしたことでしょう)、それを受けての後半が展開が本当に見事です。
この時期、本校の場合は特に新入生がそうなるのですが、人は新しい場で生きはじめることが多いことでしょう。強いプレッシャーを感じることもあるでしょう。その世界で生きていくためには逃げてばかりいることはできない。切り抜けるためには、自分を信じて正面からことに当たるしかない、ということもあります。そのためには普段からの修練が必要なのは言うまでもありません。毎年、この時期に満開の八重桜をみるたびに、この歌と伊勢大輔のエピソードとに思いをはせています。