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3 「絵に描いた餅」の話 ~ヴィジョンを持つことの大切さを考える~

今日は1年生が登校して、個人写真の撮影などを行っています。今回は、私の読書を通しての感想を書きます。生徒のみなさんはどう思うでしょうか。故人ですが、心理療法で一家をなした方に河合隼雄という方がいます。河合さんはたくさんの文章も書いて、多くの本を執筆しています。一般の人に向けて書かれたエッセイ風の文章は、親しみやすい具体例を挙げながら、人間の内面から見た生き方について考えるヒントに満ちています。一見事実に反するようで、よく考えてみると真実をついている考えを逆説と言いますが、河合さんの文章は多くの逆説に満ちているからおもしろいのでしょう。

その中でも私がなるほどと思った文章に「絵に描いた餅」のほうが実物の餅よりも価値がある場合がある、というものがあります(新潮文庫『こころの処方箋』所収)。いつも絵に描いた餅のほうが価値を持つわけではありません。実際にお腹がすいたときには実物の餅のほうが良いに決まっています。「絵に描いた餅」とは、それでは空腹を満たすことはできない、ということから「実際には役に立たない計画など」を意味しています。たしかに役に立たない計画は無駄なものでしょうが、役に立つ計画は必要です。

しかし、日本人はどうも役に立つ計画までも軽んじる傾向がある、と河合さんは述べています。計画=ヴィジョンがないのに、行き当たりばったりで行動してしまい、大きな失敗をしてしまう例は今の日本社会でも目にするところです。見通しがないと人間はイライラして、焦ります。お腹がすいているので、とにかく餅であればなんでもいい、適当に小麦粉のようなものをこねて、軽く火を通して食べれば、どうなるでしょうか。お腹をこわす可能性が高いですね。餅とはどのようなもので、どうすれば安全に食べることができるようになるか、そういう知識が要ります。その材料の手に入れ方、調理の仕方についての計画が大切になります。学習にせよ、感染症対策にせよ、ヴィジョンや計画などが大切になります。

学習でいえば、現代はその計画まで大人が立ててしまって(子どもは楽ですからその時はうれしがるのですが)、子どもたちが自分のヴィジョンを描く機会を奪っているきらいがあります。学習にまつわるスキルを身につけるにも、トライアンドエラーを繰り返すことが必要です。エラーが許されるのは学校にいる間だけです。それなのに、社会に出て、いきなり自分でヴィジョンを持つことを要求されるので、この仕事は自分に向いていないと思ってしまうケースも多いのではないでしょうか。

「絵に描いた餅」の話に戻りましょう。こんな経験はないでしょうか。本で好物のとても美味しい料理が紹介されていたので、わざわざその店に足を運んで食べてみたが、思うほどではなかった、あるいは予想通りで大満足だった。とても面白い映画だとテレビで宣伝していたので楽しみにして映画館に行ったら、見る前のほうがワクワクできた。これらの場合に、実際に行動を呼び起こしているのは、絵の餅、実物の餅どちらでしょうか。ヴィジョンがもたらすワクワク感が人を行動に駆り立てて、様々な経験をさせるのです。やはり、きちんと見通しを立てて、目標に向かって行くためには、その推進力を生みだす「絵に描いた餅」=ヴィジョンが必要だということになります。

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