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8 1年生登校日 ~納得できるラインを形成する言葉の力~

今日は1年生が登校して、検診を行いました。学校には様々な行事がありますが、この状況ではすべてをふつう通りに行うことはできません。優先順位をつけて行っていく必要があります。優先順位をつけるためには、その判断基準が要ります。今はこういうことを最も重視すべきだから、まずこれはしておかなければならない、と考えていきます。たとえば、集団では健康は成員の第一の生活基盤になりますから、健康を維持するために必要な物事は優先順位が高くなる。施設や集団では検診関係はきっちりと行うことが重要になります。

難しいのは、判断基準の設定です。それが各個人によってまちまちであることです。人によっては、健康維持よりも娯楽性の追求を第一の判断基準にするかもしれません。たとえで考えてみることにします。AとBとが二人で外食することにした。相談して、二人とも好物のイタリア料理を食べに行くことで意気投合した。ところが、Aは価格が低いことを重視するのに対して、Bは美味しいことが何よりも大切で金に糸目はつけないタイプです。界隈にイタリアレストランが一軒しかなければいいのですが、複数あって店のコンセプトもまちまちであれば、どうなるでしょうか。Aはできるだけ安い店に行こうと言い、Bは高いけれども一番美味しいと評判の店に行きたいと主張する。意気投合していたはずなのが、いざとなると意見が合わない。どちらかが、折れるしかないでしょうが、決め方が中途半端だと我慢したほうは心の中で「高い昼飯になってしまったなあ」とか「もっと本格的なスパゲティが食べたかったなあ」と思うかもしれませんし、意見が通ったほうも相手に無理を承知させた感じで申しわけないなあというモヤモヤ感を持つかもしれません。こういう感じになってしまった食事が楽しいはずはありません。

大雑把な方向性は一致していても、いざ具体的な段階に入ると判断基準を生み出す価値観の相違でギクシャクする。かと言って、力関係で一方的に強行突破したり、あたりさわりのない範囲で物事を進めようとしたりしていたのでは、よい結果にはなかなか結びつかないでしょう。福沢諭吉も「多事争論」は認められなければならないと言っています。要は判断基準の設定について、ある程度関係者が納得できるまで冷静にきちんと話し合うことが大切だということになります。上の例で言えば、二人でまた一緒に外食できる関係を大切にするには、話をして、今回は安い店に行ったのであれば、次回は一番味で評判の店に行くようにする。そういうことができるのが「社会的な力」の内実だと思います。ディベートは自分の言い分を通すための言論技術を高める方法ですが、関係者が折り合いをつけて納得できるラインを作るための言論のあり方は違う知識や技能を必要とします。新しい学習指導要領でうたわれている「社会的な力」を身につけるための会話の力の育成はこのポイントをはずしてはいけないと思います。

社会性を身につけるとは、互いの人格と多様性を認めあうことができるようになることだと考えます。同じ社会に出たときに役立つ実用的な力といっても、駐車場の契約書の内容を読みとる力を身につけることに比べて、基準の納得ライン形成の力の育成ははるかに難しいでしょう。その点で、大切なところをはずさない言葉の教育が求められているのです。

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