38 記録的な暑さの朝になりました

 今朝の大阪市内の最低気温は30度だったそうで、217年間(注:「137年間」の誤りです。39回目参照。)の観測史上、最も高い記録になったそうです。家の外に出たとたんに、もわっとした感じでしたので、これは朝の空気感ではないなと思いました。本校生徒もこの暑さに気をつけて、今日も過ごしてほしいと思います。

 さて、コロナ感染症のことがクローズアップされ続けているので、疫病に関する書籍がよく売れているようです。カミュの「ペスト」を書店やネット上でもよく見かけるようになりましたし、新書でも人類史上における疫病との闘いの歴史をとりあげた本が次々と出版されているようです。そういう方面の知識は専門書に任せて、今回は疫病と民間信仰などの関係について少し書いてみます。

 科学が発達したおかげで、疫病もウイルス等の存在が原因であることがわかったのですが、そうなる前はどのように解釈されていたのでしょうか。次々と周りの人が病いに倒れていって、しかも通常の風邪などよりも割合が圧倒的に多いような状況になったとき、これは感覚にとらえられぬ畏怖すべき存在の仕業に違いないから、それを鎮めることをしなければ、と考えるのは当然だったと思います。「疫神(えきがみ)」「流行神(はやりがみ)」といった怖ろしい神々を鎮めなければならない。どうするか。みんなで「まつろう」ということで鎮めの「祭り」が行われました。

 京都で有名な「祇園祭」がそうです。八坂神社の現在の主祭神は「素戔嗚尊(すさのおのみこと)」ですが、神仏分離令以前は「牛頭天王(ごずてんのう)」という疫神を祭神としていました。このパワーあふれた荒ぶる疫神を鎮めるためには盛大な祭りが必要である、ということで祇園祭の規模が大きいのも納得できるというものです。疫神は怖ろしい存在ですが、それを鎮めれば疫病退散の神徳を発揮してくれるありがたい神でもあります。近世までは日本各地で牛頭天王が祀られていたそうですが、ほとんど素戔嗚尊に祭神の座を譲ったようです。もともと牛頭天王はスサノオ、薬師如来、帝釈天などと同一のものとされていたそうです。国津神(くにつがみ)のなかでも仏教色が強く、出自がはっきりとせず、しかも「てんのう」という呼び名がつく、ということで牛頭天王信仰は天津神(あまつがみ)であるスサノオ信仰へと姿を変えたのです。

 京都今宮神社には「花鎮めの祭り」「鎮花祭」という祭りがあります。これは桜の季節に疫神の力が高まるので(今の花粉症を思わせますね)、「鬼神」の力を借りてそのふるまいを鎮めるというものだそうです。こちらは写真でしか様子を見たことがないのですが、鬼神の行列が練り歩く様子は非常に幻想的です。現代の鬼衣装は顔をはっきりと示しているようですが、昔の写真を見ると、顔まで髪がかかってとても怖い感じがします。

 昔は科学的な知識が不足していたので、疫病退散の祭りのために人々が密に集まってしまい、かえって流行を助長した部分もあるかもしれません。以前ならばもっと多数の患者が出ていた病気に、正確な科学的知識に基づいて、適切な対応をしてくということは、それこそ文明の成果を活かすということです。しかし、いっぽうで、神仏の加護をえて、そのパワーで我々この場で共に祭りを行っている者たちが守られている、という思いは免疫力を高めたということもあるかもしれません。残念ながら、いわゆる「コロナ禍」のために各地の祭りが中止になっています。大いなる叡智というものがあるとすれば、科学的知見と人間精神を活性化させる文化的行事などをうまく協同させて、病禍を乗り切るための力を持つものであると私は考えています。

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