ネット上などでは、匿名性ということもあってか、有名人の言動の背後にある気持ちや考えなどを憶測して、強い言葉で攻撃したりしていることが多いようです。憶測にもとづく決めつけは情報の自由化が進んだ状態であればあるほど、危険を伴うので気をつけなければなりません。西高生のみんなもこの点については本当に気をつけてほしいと思います。
たとえば、プロ野球中継の解説などを聞いていると、その場面の選手の気持ちや考えを説明していることが多いですね。「バッターは焦っていると思いますよ」「今日の○○投手は変化球に自信がないでしょう」「このランナーは盗塁するつもりはないですね」など。よく考えてみれば、この言葉が当たっているかどうかは、その選手自身に尋ねてみないとわかりません。しかし、かつての名選手が語る内容に我々は説得されて、そうなのだと思いながらプレーを追っています。
ある程度まで、他人の心を読むことは可能なのですが、それはあくまで推測であるということを忘れてはいけません。決めつけでものを言うことは基本的に危険です。他人の気持ちや考えを勝手に決めつけてしまい、それに基づいてものを言ったり、行動したりすることが原因で多くのトラブルが発生します。
自分の話を眉をひそめながら聞かれると、あまりよく思われていないと感じてしまいがちですが、単に日差しがまぶしいだけかもしれない、という例をアランがあげています。特に近しい関係の場合に決めつけは起こりがちです。相手のことはよく知っていると思っているからです。「この人は昔からそうだったよ。今度もそうに決まっているさ。」というような言葉を胸の内でつぶやいた経験のない人は少ないと思います。親や教師に決めつけられて傷ついた、という言葉もよく耳にするところです。
気をつけなければならないのは他人のみではなく、自分のことを決めつけてしまうことはよくないということです。強い影響力を持つ人から「おまえは~な人間だ」と言われて、そういう自己イメージを持ってしまっている人は多いでしょう。それが否定的なメッセージである場合は特に問題です。人間は可変的な存在なのに、その言葉にいつまでも支配されてしまうかもしれないからです。その決めつけが強いのに、かけ離れた理想像を抱いたりすると、その距離の遠さに絶望感を持つことになりがちです。「どうせ自分なんか」という思考パターンは気力を失わせます。
自分を今の点でとらえるのではなく、過去から未来への長い線でとらえましょう。性格改造のハウツー書を読むと、一瞬で性格が変わるかのように説いてありますが、心理学の見地から言うと無理があるということになります。内面を変えることが可能だが、一挙にではなく、徐々になのです。心理学者の海保博之氏は岩波ジュニア新書『心理学ってどんなもの』の中で、心を変えたいときに必要な配慮として次の四つをあげています。「・じっくりと時間をかけて徐々に・全体に目配りをして・自分なりに納得できるやり方で・過去の自分との一貫性を保つようにして」の四つです。
不適応や自我崩壊ではなく、向上心に結びつくような内面の把握と形成をするということになります。たとえば、反対側の短所を補正しながら、神経質なところは慎重で丁寧な仕事ぶりに結びつくようになっていく、ということでしょうか。短所を補正するとは、この場合であれば、細かいことにこだわりすぎていると作業に推進力が出ないので、ある程度の見切りをつけて物事を進めることができるように工夫するなどということです。