今回は西高生に年末年始に関わる民俗学的な話題を書いてみましょう。今年はコロナ禍の影響で、年始の参拝を控えたりする傾向がみられそうだという予測がされています。もともと年越しを神社仏閣で、という風習に関してはそれほど古いものではないようです。
日本の旧来の年越しは自家で祖霊を迎えるというものでした。祖霊は歳神(としがみ)として、正月に各家庭を訪れるのです。お年玉も今は大人から子どもにあげる特別な小遣いになっていますが、本来は「歳魂・歳霊(としたま)」として、歳神からのパワーの分与だったと思われます。ですから、本来は金銭ではなくて神饌米としてのもち米で作った「餅」を家長が家族や奉公人に配付していたのでしょう。正月元日には気持ちを改めて、と言いますが、実は魂が神聖なパワーによって新たに賦活(ふかつ)する、元気になる時なのです。
先祖の神霊が家を訪れる時の依代(よりしろ)の一つが、門松(かどまつ)です。門松は基本的に松と竹で作られますが、松は千年間を約束し、竹は万年にわたる保証をしてくれる縁起の良い植物とされているからです。ご先祖をお迎えするのに、その目印ができるだけ立派で美しいものにしようと昔は手作りをしていたのです。その祖霊はまず門松に宿るのですが、それ自身も神的存在として扱われます。そして、神が宿る期間が終われば撤収されます。日本の風習では基本的に一定期間、聖なる存在であったものをその期間後も飾ったりするのはタブーです。ひな人形もそうですね。
古代の人々にとって、寒い時期にも緑をたたえている樹木があることは不思議だったにちがいありません。何か寒冷の時期であっても特別な力を宿しているからだと思ったことでしょう。松も竹もそうですが、クリスマスツリーに用いられる樅(もみ)も常緑樹です。聖なるパワーをたたえているからこそ、常なる緑で青々としていると考えられた。クリスマスツリーはキリスト教の聖樹ですが、てっぺんには星をいただいています。五角形なのでペンタゴンです。イエスが誕生した時に、東方の三博士を生誕地ベツレヘムまで導いた星をかたどったものだそうです。陰陽道の象徴である五芒星も同じ形をしていますから、先端が五つある星は日本人にとってなじみが深いものになっています。ユダヤ教では六芒星、ヘキサゴンが聖なる星形です。魔除けの陣形としても有名です。
陰陽道では星の動きをよむことが非常に大切なことでした。そうして暦をつかさどり、日食や月食などをかなりの確率で予測できたとされています。たとえば平安時代に「あと何日ほどで日輪が欠けます」などと予想し、それが当たるのですから、とんでもない不思議な力を持っていると思われても当然だったでしょう。安倍晴明伝説などが生まれてもうなずけるところです。ちなみに陰陽道では五芒星の先端はそれぞれ木火土金水に相当します。
話を元にもどすと、日本人にクリスマスツリーがこれほど普及したのは、もともと門松の風習があったからかもしれません。大部分の人は宗教的な意味あいなど意識せずにツリーを飾っていますが、新たなる聖なる存在がこの世に誕生したという希望の象徴だったことを考えれば、その点でも門松と同じような意味を持っています。人類は今、感染症と戦っていますが、一刻も早くそれが落ちついて、来年が新たな良い年になることを願うばかりです。