40 音読とICT

 「山月記」などで有名な中島敦は横浜の女子高で国語を教えていたことがあります。授業を受けていた生徒の回想によると、何より中島先生の朗読がすばらしかったということです。詩や小説などを聞き手が引き込まれるような音読をすることができることは、国語教師の理想の一つでしょう。そのためには、言葉にこもる気持ちや意味のまとまりの把握はもちろん、読むリズムやスピード、声のトーンなどにも留意しなければなりません。そして、生徒に聴かせるにあたっては、教員自身が繰り返して読む練習をする必要があります。

 一方では、デジタル教材を使えば、テキストの朗読もいろんなことができるようになってきています。たとえば、「あっ、今の文のこの漢字の読みがわからなかった」「さっきの文の意味が今一つピンとこなかった」という場合、教員や学友の音読では先にどんどん進むので、気になりながらも、付いていかざるをえません。その点で、PCを活用して各自がイヤホンでマイペースで音読チェックをするようにすれば、引っ掛かりが生じたところで止めて、繰り返して聞くことができます。デジタル教材の音読というと、味気のないものというイメージがあるかもしれませんが、相当なレベルに達しているものもあるようです。友達がつっかえながら、たどたどしく読むテキストを、教員がいちいち訂正などをしていると、少なくとも思考のリズムは生まれにくいでしょう。かと言って、いつも教員が範読をしていると、生徒は受け身になる状態が長く続いてしまいます。

 要は何を目的として音読をするか、それを授業を行う教員がしっかりと意識することが大切です。そして、生徒がその目的を知って、意識的に学習に取り組むことが必要なのです。日本語の美しさを空気を伝わってくる肉声で味わうのであれば、教員がうまく朗読するのを聞かせるほうがよろしい。古文や漢文は意味が分らなくても、聞いているだけでリズムの良さや響きの美しさを感じるものが多くあります。しかし、漢字の読み方のチェックなどをするためであれば、デジタル教材を使ったほうがはるかに効率的です。国語科教育でICTを「使わねばならない」のではなく、目標や目的にかなった教育効果という点でICTを使ったほうがよい場面では積極的に「使えばよい」ということです。しっかりと音読の研鑽場面をつくるうえで、必要ならばICTの便利な機能を大いに活用することになります。

 では、その割合をどうするか。そこまでを数値化してしまうのはいただけません。生徒の習熟度や教員の朗読の力量などによって、可変的であるべきだと思います。

 現在、本校教員の授業観察をしているのですが、一人一台端末をすでに効果的に用いて授業をしている場面がいくつかありました。本校でも教員も生徒もともに主体的になり、活用できるICTはどんどんと取り入れて、良い授業づくりをしていってほしいと思います。

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