50 感染者数予想から思ったこと~AIの予想と生活~

 1月最後の日を迎えました。この間に正月になったと思っていたら、次から次へと起きる事態に対処して、あわただしく日々を送っているうちに、明日からはもう2月です。

 現代の我々は、科学的に証明されているかどうか、ということを判断の基準にすることが多いと思います。物質が対象の場合はもちろんですが(「この水には細菌類が入っていないことが実験で明らかになっています」など)、人の動きや心のあり方なども、一定数のデータを集めてしかるべき方法で分析して導き出した答えであれば(「~する傾向がある人は男性に多い」など)科学的な手続きをふんだものとして、認められています。コンビニなどのマーケティングなどは徹底していて、たとえばある年代の女性がどの時間帯にどういう商品を買うことが多いかなどが即座に集約されていって、商品開発や出店の検討に役立てられていきます。

 たしかに、対象の範囲を明確に区切って行われるなかでは、科学的な結論は信頼度が増します。実験設備の整った実験室はその典型です。単純な原因と結果の結びつきの判断ではなく(例:「あの~を食べてから体の調子ええから、~は体にええで」)、できるだけ不確定な要素を排除して、条件を変えて比較するためのグループも設定して行うことにより、結論の精度は上がります。しかも、現在ではAIを利用して、ビッグなデータを扱い、処理することができるようになっています。「すごい機械が出した科学的な結論だから間違いはないだろう」ということですが、大切なのは「間違いはない」ではなくて「間違いはないだろう」という感覚です。「だろう」という部分にはそれは「100%正確な情報」ではないという意味があります。一般の社会生活では不確定な要素が多く、条件を変えての比較対象が難しいものがある。いや、むしろ、そういうもののほうがはるかに多いものです。

 年末から年始にかけて、某社のAIがしていた感染症の感染者数の推移予想を毎日ほど見ていました。年末時点まではその予想は高い精度を見せていて、私もすごいなあ、行事についての判断の参考にこれは使えると思っていました。しかし、年が明けてからの予想は大きく外れだして、とうとう見るのをやめてしまいました。ウイルスの突然変異などは不確定要素の最たるものです。「エラー」現象までを組み込んだ予想は現代のAIでは無理だということです。突然の「エラー」、変異は順序がなく、まるで飛躍です。フランスのベルクソンという哲学者は〈生命は創造的に進化する、生命力は飛躍する〉ということを述べています。生命ではない地震のような自然現象でさえ、現在でも予想するのは難しいのですから、ましてや飛躍的にかたちを変えるウイルスのような対象を相手にした予想、それが影響を与える現象の予想は困難を極めるということです。

 そのうちAIが人間のはたしている役割にとって代わる時代がくるという宣伝がよくされます。何という大雑把で単純な結論かと思います。経済の方面から考えても、雇用を、仕事があるということを保障できない社会は衰退するしかありません。すべての業務を機械がする会社ばかりになれば、その会社が売る商品を買える人間がいなくなるので、結果的には会社自体が成り立たなくなります。人件費削減、合理化、能率化自体が目的になるとこうなります。

 不測の事態が起こった時にでもできるだけ主体的にものごとに向き合って対処できる人間、そういう時に非を他人ばかりのせいにして責めることなく、連携して課題の解決を協力しながら図っていける人間性を育むことが大切なのはいつの時代でも変わらないと思います。AI、機械に頼りきるのではだめだということです。アランは良い精神とは、単に知識がたくさんあるようなものではなくて、「しっかりとした精神、がっしりとした精神だ」だと言っています。「あの人がいれば大丈夫だ」というような存在が人に安心を与えるのは言うまでもありません。家族のような小さなコミュニティから国家社会のような大きなまとまりまで、そういう人が多い組織ほど安定して未来に臨んでいけます。我々は実生活のうえではその大切さがよくわかっているはずです。私は社会的な実力の育成ということを本校の教育方針で強調しています。その根底にはそのような思い、願いをこめているつもりです。

カレンダー

2023年3月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

年別一覧