53 「現代百人一首」を読んでみよう

 オミクロン株新型コロナの感染状況について、早ければ2月上旬にピークを迎えるという予想が出ていましたが、現況をみるとまったく予断を許さない感じです。マスコミもコロナ感染に関しては飽和状態になっていて、大阪では保健所はひっ迫を通り越して機能に支障をきたしているし、その業務を部分的に肩代わりしている学校も本来の仕事に影響が出るほど対応に追われていることなど、あまり報道が目立たなくなりました。ワクチン接種の3回目もやっとこれから本格化といったところなので、どのようなかたちで収束していくのか先を見通すことができずに教育活動に関する計画などで困っています。

 社会の落ち着かない状況に対する個人の内面での反応はどうなのでしょうか。こういう状況に個々の心はどういう動きを示しているのか。それは具体的な生活場面の送り方などに反映しているはずです。西高生の皆さんと同世代の人たちはどうなのか。それを知ることができるものの一つに毎年東洋大学が行っている「現代百人一首」があります。中高生を対象に短歌を募集して百首を選出しています。しばらく前に朝日新聞の天声人語でもとりあげられていました。私も以前に現代文の短歌の授業をしているときに、クラスごとの歌集を作ったりしたのですが、その頃から「現代百人一首」を紹介して、生徒の創作の参考としていました。今回のものからコロナ感染症に関わる作品をいくつか取り上げてみます。

 【二回目のワクチン接種終わったよ単身赴任の父への切符】(北海道:高3)

 コロナ禍は家族の分断も生みます。単身で他所に赴任中の父親に会いたい。けれども、コロナ禍のために長く行くことができなかった。ワクチンの二回目の接種が終わって、いろいろな手続きなどができる、これでやっと父親のところに行ける喜び。「よ」と父親に呼びかけているところに感情の高まりの表現があり、接種を「切符」にたとえているところが優れていますね。

 【次はいつ会えるのかしらと泣く祖母の手も握れずにガラスと会話】(宮城:高2)

 おそらく介護施設か病院に入っている祖母にやっと面会がかなったが、感染対策でガラス越しにしか話ができない。心細そうに泣く祖母の手を握りしめて「私もがんばるからおばあちゃんもがんばってね」と言いたいけれども、無情にもそれもかなわないというつらい情景が目に浮かぶようです。やさしい気持ちはきっと通じ合ったはずです。

 【卒アルの写真撮影マスクとり初めて知った先生の素顔】(愛知:高3)

 【十年後再会しても気づくかなマスク顔しか知らない友達】(三重:高2)

 【コロナ禍で日々マスクつけ気がついたプリクラよりも盛れる気がする】(埼玉:高2)

 【先生のかわいい眉が気になって目が離せないミーティング中】(山形:高1)

 マスクをこれほど長期間にわたって人々が付けなければならない状況はなかったでしょう。学校生活でも教師や級友のマスクをとった顔を見ることがない状態がずっと続いています。マスクで覆っていない眉目だけに視線が行きますから、四番目の歌のようなほのぼのとした状況も生まれやすいのかもしれません。顧問の話もきちんと聞けたのかな?

 最後にこういう状況下でも若い心が繊細に弾んでいるような歌たちを。

 【妹の寝顔にそっとごめんねと言うくらいなら優しくしろ俺】(東京:高3)

 【相葉くん櫻井くんも祝結婚私も一応一般女性】(茨城:高2)

 【わからない君の指し手も感情も誰か教えて恋の五手詰め】(東京:高3)

 家族につらくあたってしまった後悔、結婚するアイドルへの複雑な思いなど、コロナ禍のなかでも様々な愛情や憧れの気持ちは若い人々の心の中に変わらずに息づいていることをこれらの歌は教えてくれているようです。最後の歌は実際に将棋を指す間柄なのかもしれません。将棋の詰みよりも恋愛の成就のほうがはるかに難しいことを実感しているようすが伝わってきます。

カレンダー

2023年3月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

年別一覧