76期生が卒業しました

3月1日(金)、76期生の卒業式が挙行されました。

数日前の雨の予報で心配された天気も前日遅くには回復し、

4年振りに多くの来賓の方にお越しいただいた式は、厳粛かつ感動に包まれた、

思い出に残る素晴らしいものでした。

313名の卒業生の皆さん、

ご卒業おめでとうございます!

私からは、下記の「餞のことば」を送らせていただきました。

ただ今、313名に卒業証書を授与いたしました。まずは、この記念すべき日に、多くのご来賓の皆さまにご臨席いただきましたことに対し、高いところからではございますが、深く感謝を申し上げます。

また、保護者の皆様におかれましては、ある時は厳しく、そして、ある時は暖かく接しながら、ともに歩まれた三年間であったかと存じます。

不安定になりがちな青年期に加え、コロナ感染症による様々な制約、厳しい状況のなかで、懸命に高校生活を送っているお子様に対する寄り添いは、相当なものであったと推察をいたします。本日、新たな旅立ちを迎えた卒業生たちはこの桜塚高校で、心も身体も立派に成長されました。

担任団をはじめ、教職員一同、心からお喜び申し上げますとともに、この間、本校の教育にご理解・協力をいただきましたことに深く感謝を申し上げます。

さて、卒業生の皆さん。卒業おめでとうございます。振り返れば、高校生活は決して、楽なことばかりでは無かったと思います。将来に対する不安、様々な悩みや葛藤の中で、もがき・苦しみながら過ごした日々もあったことでしょう。

また、皆さんが中学3年生の時に感染が始まった「新型コロナ」は、高校に入学してからも、学習活動における制約をはじめ、学校行事の中止や縮小、部活動の制限、さらに日常における友達との楽しい会話すらも奪い去りました。思い通りにいかない苛立ちや、やるせなさを感じたことも多かったと思います。

しかし、そんな厳しい中においても、皆さんは決して後ろを向くことなく、様々な思いを持つお互いどうしを思いやり、励ましあいながら、高校生活を歩み続けました。部活動においては、全国大会や近畿大会出場を果たしたクラブをはじめ、多くの部員が活躍し、学校に元気を与えてくれました。

「心をひとつ」にし、目標に向かって力を合わせた経験、仲間との思い出は、

かけがえのない財産になるでしょう。

また、今年度、コロナが5類の扱いとなり、教育活動が徐々に復活をしていく中、皆さんは最高学年として後輩たちを引っ張り、見事、体育祭や文化祭などの行事を成功に導きました。目を閉じれば、多くの思い出が脳裏に浮かんでくることと思います。

今、皆さんの周りには、そんな三年間を共に支えあってきた、かけがえのない仲間がいます。

四月から、それぞれ、次のステージに進むこととなりますが、出会った「奇跡」に感謝し、結ばれた「絆」をこれからもずっと大切にしてください。

さて、そんな皆さんに、ぜひこれから大切にして欲しいものがあります。

今日はそれを伝え、私からの「はなむけの言葉」にしたいと思います。

その大切なものとは、他人を「受けとめる心」です。

人にはそれぞれ「自分なりの考え方や価値観」があります。

そして、その中には、似たものもあれば、かけ離れたものもあります。

人は大抵、考え方や価値観の近い人と仲良くなり、多くの時間を過ごします。

皆さんの高校生活もそうであったと思います。

しかし、時には自分と違う考えや、自分とは異なる感覚を持っている人に出会うことがあります。そして、場合によれば、考えの違う者どうしで力を合わせ、一つの方向性を見出さなければならないことも起こります。

おそらく、皆さんのこれからの人生においても、そのような場面を数多く経験することになるでしょう

そんな時に必要になるのが、その人を「受けとめる心」です。 

それは決して「相手の考えに合わせる」ということではありません。

むしろ自分自身の考えは大切にすべきです。「受けとめる心」とは、たとえ自分と違った考えであったとしても、一方的に否定したり無視したりするのではなく「その人の気持ちや考えに寄り添うことのできる心」です。

多様な人が交じり合う社会において、この「受けとめる心」は、

川に架かった橋のように、人と人とをつなぐ役割を果たします。

そして、この心を持っているかどうかで、その人自身の「人との繫がり」や、「人との関係性」が大きく変わることになります。

例えば、考えの違う人が「対立」に向かうのか、それとも「対話」での解決に向かうかは、お互いの「受けとめる心」が大きく影響します。

お互いが気持ちを受け止めず、歩み寄ることない両者は「対立」へと向かいます。「対立」からは、新しいものは生み出されません。「勝ち負け」が全てのため、相手を傷つけたり、多くの物を失ったりします。

ところが「受けとめあう心」を持った両者は「対話」への解決へと進みます。

対立とは異なり「勝ち負け」だけがゴールではありません。お互いを尊重し考えを合わせるなかで、一人では生み出せなかった新しい物や、新たな価値観、気づきをもたらすことも少なくありません。

現在、ロシアとウクライナの国境周辺地域では、武力による戦闘がおこなわれています。この、「対立」の結果として起こる戦争は、大切な「人の命」や安心な生活を奪ったり、文化財産などを破壊する極めて不合理で、「解決」という言葉からは程遠い手段です。対話による平和的な解決こそが、ふさわしい手段であることは、今さら、言うまでもありません。

そして、私たちの日常においても、人の気持ちを想像することのできない行動が様々な問題をもたらしています。例えば、近年、SNSによる一方向的なコミュニケーションが世の中に溢れ、相手の気持ちを考えない攻撃的なメッセージが多く発信されるようになりました。

相手の「考え」を否定するだけではなく、「その考えを持つ人自身」に対しても誹謗中傷が行われ、大勢が一人の人間の人格や生き方まで否定する「集団いじめ」のような形にまで発展することも少なくありません。残念ながら、その攻撃を受けた人が、自ら命を絶つケースすら起こっています。

卒業生の皆さん、これだけは、ぜひ心に留めておいてください。

人の考え方は様々です。しかし、人の感じ方には大きな違いはありません。だから「相手を自分に置き換える想像力」がある人が、相手に寄り添った行動を取れるのです。

そして、その想像力こそが今日伝えたかった「受けとめる心」です。

お互いがお互いを受け止め、理解し、行動することによって誰もが自分らしく生きていくことのできる社会が実現します。その社会の中で、多くの人と触れ合い、力を合わせながら活躍する皆さんの姿を楽しみにし、私からメッセージを伝えました。

それでは76期生の皆さん、いよいよお別れの時が来ました。自信を持って次のステージへと進んでください。

皆さんがこれから生きていくのは、変化の大きい社会ですが、恐れることはありません。

皆さんは幼い子どもの頃、なんでも自分でやってみたくて、親に無理を言ったりしながら、できないことを何度も何度もチャレンジをしました。何故なら、人間はもともと「できないことができるようになること」に大きな喜びを感じる生き物からです。

ところが、人はなぜか歳を重ね、できることが多くなってくると、今度は失敗することを怖がり、可能性の低いことに挑戦することをしなくなります。

皆さん、人の目や、他人との比較や、評価ばかりに縛られることなく、いつまでも「自分らしさ」を大切にしてください。そして、ヨチヨチ歩きだった幼い子どもの頃のように、たとえ転んでも、恥ずかしがったり、下を向くことなく、手のひらに付いた土を払って、立ち上がり、また前に進んでください。

選んだ道が「正解だったかどうか」を悩むことも時には必要かもしれません。しかし、もっともっと大切なのは、「選んだ道を自分の力で正解」にすることです。

ここから大きく広がる未来、そして皆さんの活躍を、心から楽しみにしています。

令和6年3月1日       

           大阪府立 桜塚 高等学校 校長 田 尻  肇