2泊3日のミラクルサマー!SSH物理体感校外学習

1学期の終業式で"ミラクルサマー"の話をしました。"ミラクルサマー"というのは本校卒業生で元宇宙飛行士の土井隆雄先生がご自身の生き方を決定づけた高校2年生の夏休みの体験を表現された言葉(詳しくは7月21日のブログ「1学期終業式で生徒のみなさんに伝えたこと」をご覧ください)です。SSH物理体感校外学習の報告を受け、これに参加した生徒の中にはきっと自身のミラクルサマーを体験した生徒がいると確信しています。望遠鏡ではじめて見た火星が土井先生の宇宙への思いを確固たるものにしたように、この3日間に体験したことは志を持つ生徒の背中を強く押してくれたと思います。凝縮された3日間に何があったのか、詳しく説明します。

まず向かったのは東京。ホテルで待っていてくれたのは三国丘高校から東京大学に進学した卒業生(東京大学大学院工学研究科(JAXA宇宙科学研究所 所属)五味 篤大さん)でした。自らの研究(液体の気化熱を利用したループヒートパイプに関する研究)やこれまでの経験などリアルな話を年齢の近い先輩から聴けたことは参加生徒にとって大きな刺激になりました。講義のあと、生徒は翌日の校外学習の予習をしたのち就寝しています。引率した理科(物理)の先生が受講後の感想を読んだところ、自分自身の興味をもとに研究を進めていく卒業生の姿に憧れた生徒が多数いたことがわかりました。

翌28日(木)、朝から向かったのはスカパーJSAT(株)。スカパーJSAT(株)は自前の衛星を保有し、得られるデータを活用して様々なプロジェクトを立ち上げている企業です。今回は事業内容の説明とともに放送施設・衛星アンテナを見学させていただきました。特に、災害対応やスペースデブリの除去など、実際の宇宙ビジネスのお話を聞くことができたことは有意義でした。また、宇宙ビジネスに関わる会社はエンジニアだけでなく広報や経営など様々な分野の人々の力で成り立っていることをお話いただいたのが印象的だったようです。宇宙に関わる仕事の多様性を実感できた貴重な経験になったと思われます。

昼食後すぐに筑波宇宙センターに移動し、JAXA 試験センター長の三枝 博氏の解説で衛星などを見学させてもらいました。それぞれの衛星の目的と共に宇宙機の形状理由やその他詳細な構造を説明していただき、生徒は知的好奇心を刺激されたようです。また、前日の五味さんの講義で説明を受けた宇宙機の構造を間近で確認することができ「これの裏にループヒートパイプがひっついてるはず!」と知識が腹に落ちる体験をすることができた生徒も見られました。感想によると、ただ見学するだけでなく、事前学習(後述)で学んだ知識をベースとして現物に触れる経験がより深い理解に繋がったようでした。

この日宿泊するホテルに到着した生徒たちは、昼間に筑波宇宙センターの解説をしていただいた三枝先生の講義を受けました。講義では、基本的な物理の話から、衛星の軌道、スイングバイ航法などしっかり物理の考え方を扱った話題、人工衛星から得られる地球環境問題の話題、地球を隕石から守る「プラネタリーディフェンス」の話題、そして今最もホットな話題であるアルテミス計画・マーズワン計画に関する話題など多岐にわたる講義を行っていただきました。特に宇宙機に用いられている断熱材の材質や構造に関する非常に込み入った内容に関する質問にも丁寧にお答えいただき、充実した時間を過ごすことができました。引率の先生によると、講義と実体験の組み合わせが生徒の理解を深めている様子がよくわかったとのことでした。生徒はこの日も翌日の予習のあと就寝しました。

最終日(29日)はバスで物質・材料研究機構(NIMS)に移動し「はっ水」に関する研究を紹介していただきました。講義をしていただいたのは同機構の天神林 瑞樹博士です。表面張力とはっ水の考え方の講義から、はっ水加工を施された"茶こし"に水を貯める、演示実験も行っていただきました。その不思議な様子に多くの生徒が声を上げていました。また、施設見学として人工ダイヤモンドを合成する「超高圧装置」、熱や磁場などにより性質を変える「スマートポリマー」を紹介いただきました。特にスマートポリマーは未来の医療機器への応用も期待されており、物理だけでなく化学や生物分野の知識を複合させた研究に触れる経験になりました。講義は非常にわかりやすく、高校では取り扱わない「表面張力」について理解を深めることができました。

午後は国立科学博物館の見学です。様々な動物のはく製・化石、昆虫の展示から過去の物理学の実験器具など非常に多くの展示の中から興味関心のある展示を自由に見学し国内最大級の博物館の魅力を堪能しました。

体感校外学習は単なる体験講座とは違います。3日間をより有意義なものにするため、学校で事前学習が行われました。十分な基礎知識があってはじめてホンモノに触れる価値が生まれるのです。事前学習についても触れさせていただきます。まずは、宇宙開発フォーラム実行委員会に講師をお願いして実施したワークショップです。内容は「衛星を利用した農業ビジネスの構築」「宇宙ロケット開発企業の立ち上げ」。このワークショップを通じて、現在のJAXAが保有している人工衛星の性能と農業向けの活用方法を学ぶことができました。また、理工系の人材だけでなく法律や経理など、実際は様々な形で宇宙開発企業が成り立っていることを理解することもできました。さらに、「宇宙環境」「熱制御・伝導・対流・ふく射」「ヒートパイプ」「宇宙マイクロ波背景放射」について調べ学習を行いました。6名のグループが1つの用語を調べ他の3班にプレゼンテーションする形式で行うことで各生徒の負担を小さくし、かつ、しっかり他の用語も理解することができました。また、互いに質問し合うことで、不明な事柄を洗い出し現地でより質の高い質問をすることに繋がりました。また、筑波宇宙センターでの研修のために、「きぼう・こうのとり」「みちびき」「はやぶさ2」「宇宙ロケット」に関する調べ学習も実施しました。

今回のSSH物理体感校外学習に参加した生徒は24名(1年生7名、2年生8名、3年生9名)。事後アンケートの結果、この行事が多くの生徒の興味・関心を向上させるとともに、自身の主体的行動に繋がる刺激となったことがわかりました。研修の内容は非常に専門的で難しいものばかりでしたが、事前学習を工夫することで宇宙やものづくりに関して興味関心を高め、その上で研究者や知識人のお話を聞き、さらに現地に赴き現物(ホンモノ)を見るプロセスを経ることで知識を深く腹落ち(体感)させることができることが証明されたと考えます。また、今回初めて3年生の参加を認めたましたが、3年生がどんどん質問し学ぶ姿を見て、1・2年生が大いに刺激を受けたようです。先輩に憧れを抱いたという感想も見られました。

SSH物理体感校外学習には三国丘高校の教育活動が大事にしている2つのことが含まれています。ひとつは「ホンモノから学ぶ」ということです。事前学習を含め今回お世話になった講師の先生方はみなさん斯界で活躍する専門家(=ホンモノ)です。また、訪問した施設や企業も日本を代表するものばかりです。表には出てきませんが、こんなことが可能なのは母校愛に溢れる卒業生の導きがあってこそです。もう一つ大事にしているのは「体感させる」ことです。知識を得るとか理解するということを超えた「体感」をめざします。十分な理解の上で実際に経験してみなければ体感することはできません。体感校外学習というのはそういう意味なのです。

長い文章を読んでいただきありがとうございました。ついつい力が入ってしまいました。以下、写真を載せます。生徒が主体的に学ぶ様子や楽しそうな表情をご覧ください。