20期生 1年。授業中にいきなり「書きなさい」と言われて、2、30分という短い時間で書いた「夢十一夜」。
オリジナリティに富んだ良作が集まりました。全部紹介できなくて残念ですが。あと2作、お楽しみください。
『夢十一夜』 ジョリー
こんな夢を見た。
一匹のヤモリが動かずにじっとこちらをにらんでいる。何かを訴えかけているのか、こちらを警戒しているのか、それとも単に私に怖気づいて動けないだけか...。
そんなトカゲを見ているうちに昔のことを思い出した。八歳の夏、よく一緒に遊んでいた従兄がよく言っていた言葉を。
「今日のヤモリはどうする?」
そうだ。従兄は残酷な少年だった。よく虫や小動物をいじめていた。その従兄がその当時よくいじめていたのがヤモリだった。
そんなことを考えているとふと、このヤモリは普通のヤモリではないことに気付いた。目をうるわしていて何かを伝えたそうに口をパクパクしている。
このヤモリは従兄の生まれ変わりだと確信した。従兄はあの夏いつものようにヤモリを捕まえにいこうとする途中に川に落ちて死んでしまったのだ。その従兄がヤモリに生まれ変わり、今、私の目の前にいる。その姿を見て私はこう思った。
「ざまあみろ。」
私はイモリを叩き潰した。私は従兄が嫌いだった。
こんな夢を見た。
眠たい。眠たすぎる。だが目の前には天才小説家、常居次人先生がいる。私は先生に尋ねた。
「何か、目が覚める話はないですか?」
「そうですねぇ。ではこんな話を。あるところに常居次人という小説家がおりました。」
「おっ、先生自身のお話ですね。」
「その小説家は、本を百冊出していますが、すべて雰囲気が異なっていました。」
「そこが面白いところです。」
「しかし、作品自体は知っていても、誰も書いている人のことは知りませんでした。」
「だから私はここにいるのです。」
「そんな中、一人の女性がやって来ました。」
「私のことですね。」
「ここで、常居次人は本当に存在するのかについて話さなければなりません。」
「はい?」
「常居次人とは、実は架空の人物でした。すべての作品が異なる雰囲気だったのは、すべての作品を別々の人が書いているからです。」
「どういうことです?」
「常居次人。どんな字で書きますか?」
「えっと、常に、居る...次の、人...。」
「あんたのことだ。」
「え?」
「誰でも一生に一本は面白い小説を書くことができる。あなたが百一人目の常居次人だ。」
「えっ? 冗談、ですよね。」
「さぁ、常居次人の名を汚さぬよう、頑張ってくださいね、先生。」
「そんなぁ......。」
「ほら、眠くなくなったでしょ。困りますよ。堂々と隣で眠そうにされるのは。」
「すみません。でももう大丈夫です。今の先生の話がとても面白かったので。」
先生は心配だと言いながら、私に一本小説を書くようにすすめてきた。これに書くと良い、と渡してきた原稿用紙には、常居次人と印刷されていて格好良い。
「でも、この原稿用紙に書いて、ほかの誰かが読んでしまったら、先生の作品だと思われてしまいますよね、先生。............先生?」
誰もいない。開くはずの扉も開かない。
「先生? やめてくださいよ。先生? 先生-!」
「はい?」
そこには先生の姿が。
「もぉー。驚かさないでくださいよ。本気で私、怖かったんですよ。本当に私が百人目の常居次人かと思いましたよ。」
「そんなわけないじゃないですかー。」
「そうですよね。」
「百一人目だろ。」
〈了〉