21期生羅生門

~三者三様の言い分がある~

下人、五人

1、俺は下人だ。先ほど死人の髪を抜いている老婆を見つけ、何かよくないことをしているのだと思い、問い詰めたのだが特に面白いことは出てこなかった。その上奴は自分がしていることは仕方がないことであると主張している。困った。言っていることはただの言い訳だが、道理が通っている気がしないでもない。これ以上はやめておこうか。いや待てよ。ひょっとすると奴の言っていることが真理なのかもしれない。能がないものが生きていくには悪事を働くほかにはないのかもしれない。なるほどな。それなら、俺も何も遠慮することはなかったのだ。これからはそうやって生きていこう。では手始めにこの老婆の身ぐるみを剝いで逃げるとするか。そうだ、そうしよう。(K

2、おれは下人だ。おれは仕事もクビになり、この不景気の中で飢え死にしそうになっていたところ、ある老婆と出会った。その老婆に盗人になる決意をさせてもらった。だからおれは老婆に感謝をしている。決してよい人からは盗らないようにしたい。ただ、悪人に対して容赦するつもりはない。そしていつかまた老婆にあうことがあれば、一言ぐらいいてやっても言いと思う。そして、着ぐるみ(!編集者)を着せてやってもいいかなと思う。(N)

3、おれさまは下人だ。あの夜の後のおれさまの生きざまを、教えてやるよ。まず、あの夜は老婆を押し倒して逃げた後、おれさまはどうやって生きていくかと思いぶらぶらと街を徘徊していたら、大きな荷物を持った老婆を見つけたのだ。今日は老婆によく会うな、と思ってその場を立ち去ろうすると、その老婆がおれさまに荷物を運んでくれないかと頼んできた。おれさまは暇だったし、あの老婆を突き飛ばして少し罪悪感があったので手伝ってやった。するとそのお礼として何かを入れてふくらんでいるふろしきをもらった。その老婆はボロボロの着物を着ていたので大して期待はしていなかった。だが、中身を見てみると金貨がたくさん入っていたので、おれさまはとてもうれしくて飛び上がった。そして、おれさまはまずうまい飯をこれでもかというほどたらふく食った。そして、このおれさまを首にした主人に仕返ししてやろうと、主人の家を買い取った。あの主人はおれさまの足をつかんできたが、またふり倒してやった。とても気持ちが良かった。だが、何かが足りなかった。それはなんだろう、と考えていたが答えが出なかった。おれさまに、この何かがわかる日はくるのだろうか。(M)

4、俺は下人だ。主人のもとに帰れるはずがクビにされて困るなぁ。来週は弟の誕生日なのにプレゼントを買うどころか、今日食べるものもないやぁ。とりあえずこれからの生き方を考えよぉ。このまま何もしなければ飢え死にしてしまうしなぁ。かといって盗人になるって勇気もないしなぁ。あ、キリギリスだ。あのキリギリスは気楽でいいなぁ。俺は今日生きられるか不安なのに、アイツはそこらじゅうにいる虫を食べられれば生きられる。俺もいっそ、鳥や他の動物に生まれたかったなぁ。(Y

5、わたしは下人だ。老婆に会って10年後わたしは結婚してむすこ二人と娘一人の五人家族で楽しく住んでいる。今の職業はにんじん農家で地道にコツコツ働いている。悪いことをするのはよくないと気づいたのは六年前。盗みをする毎日はおもしろくないことに気づいた日からにんじん農家になった。にんじん農家の売り上げはイマイチだけど、楽しさ幸せは盗人の100倍だ。わたしは死ぬまでにんじん農家として食べてくれる人が笑顔になってくれるようなにんじんを作ろうと決めた。(K)

キリギリス、4匹

1、おらはきりぎりす。あの日の一部始終を見ていた。おらはあの後、下人の服にしっかりしがみ付いた。そして下人に気づかれずにそばにいた。

   あの日から二十年。おらは変わりなく元気だ。この二十年、下人とともに生きてきた。下人が盗んできた食べ物のかすを、おらは腹いっぱい食べている。そのおかげで、おらは食べ物に関しては不自由なく生きてこれた。

   下人を否定する者もいるだろう。しかし、おらはこう思う。こういう生き方もありなんじゃないかと。おらみたいな奴は他にいくらでもいるからだ。(H)

2、私はキリギリスだ。随分遠くまで来てしまい、気づけば巣までの道が分からなくなってしまった。あいにく雨まで降ってきたので、今日は最悪な日だなぁと思った。ひとまず、自分の体よりひとまわりもふたまわりも大きい円柱にとまり、雨やみを待つことにした。周りは雨の音しか聞こえないので、とても落ち着いた。近くに人間が一人いるが気にしない。しばらくすると、どこからか鴉がたくさん集まってきた。自分のことを狙っているわけではないとわかっているのだが、それでも少し気味は悪かった。そろそろ帰るとしよう。仲間も心配しているかもしれない。さっき来た道をたどって行けば、どうにかなるだろう。さんなことを考えながら、ゆっくり巣のある方向に進んでいく。気がついたらさっきの人間もいなくなっていた。(M)

3、私はキリギリスだ。今日は風の香りで雨が降るとわかっていたので、この間見つけた良い雨やどりのできる場所にきている。ここは人間が少なくて静かだから心地がいい。

  雨は嫌いだ。はねが濡れると重たくて動けなくなる。それに雨粒は巨大で視界が悪い。私はまだ、雨が好きなキリギリスと会ったことがない。つまり雨が好きなキリギリスなんていないに等しいということだ。

  そこにいる人間なにをしてるんだ。数分おきに場所を移動しては難しい顔をみせたり、口をあけて遠くを見つめている。この人間も雨が嫌いなのだろう。ただ、この人間が動くたびに鳴る草履の草履と床の擦れる音は不快だ。静けさを壊している。私は、羽を広げた。仕方がない。人間に目配りをして柱から離れる。雨は未だ止みそうにない。(T)

4、おいらはキリギリスだ。さっきまでは羅生門のおっきな円柱のとこで雨宿りをしていたけど、今は雨宿りしてたときに前を通ったみすぼらしい男の背中にくっついている。男は今、梯子を上っている。

  「うわ―、高―い。」

やっと上へたどり着いたらこわいおばあさんと、かわいいキリギリスの女の子がいた。すると、男がきゅうに飛び上がったからおいらは背中から落ちそうになった。

  「あ―、落ちる―。」

ドンッ。イテテ。目をあけるとさっきのかわいらしいキリギリスちゃんが心配そうにおいらを見つめている。

「大丈夫ですか? 高いところから落ちて心配で、すっ飛んできちゃいました。」

「ありがとう。うれしいな。テヘへ。」

こんな甘ったるい場面が羅生門の話の裏で起こっていたのでした。チャンチャン。(M)

老婆、3人

1、わしは老婆だ。死人のかみの毛を抜いて鬘にしようと思うのじゃ。今日もたくさん死人がいてうれしい。それなのに、この変な男は何なのじゃ。わしは悪いことなんてしていない。こいつらはそれぐらいのことをされてもいい人間ばかりぞよ。見栄をはって上から目線でものを言ってくるお前のほうがよっぽど悪じゃ。わしみたいな老婆をいじめて何になるのじゃお前みたいな暇なやつは早く死んで、わしが髪のを抜いてやる。(K)

2、わしは老婆じゃ。ここにいるのは悪人ばかりじゃ。何をしても恨まれまいぞ。かといってわしも人じゃ。心は痛む。とて、飢え死にほど嫌なものはない。「やる」しかないのじゃ。ん、この女は、ヘビの女じゃないか。やはり悪に手をそめたものは天罰を受けるのじゃな。この女から少し髪をいただき、かつらにして今月はのりきるとするか。この女なら、よかろうて。いつかわしも、ここに葬られることになるのじゃろうな。明るい人生ばかりじゃないと知っておったが、ここまで底辺で生きることになるとは・・・。これもある意味、生き方を間違えた天罰じゃな。(T)

3、わしは老婆だ。今わしは女の死骸から髪の毛を抜いておる。かつらにするためじゃ。人の死骸から髪の毛を抜くことは良い気分になるものではないが、おの女はそのくらいのことをされてもいい人間なのじゃ。周りのやつらも同じじゃ。人をだましたり、殺したりしてきたやつらのなれの果てが、ここいらにはわんさか転がっておる。わしもいずれかはこのなれの果てどもの一員になるのじゃろうか。そんなことを思っておったわしのもとに急に若い男が飛び込んできよった。話を聞くに、どうやらこやつはわしのことを許せないようじゃ。検非違使の庁の役人ではないじゃと?

そんなことは見りゃ分かるわい。わしが今しておったことを。なぜこんな若造に言わねばならんのじゃ。強情な態度をとるわしに、若造はしびれを切らしたように刀を振り下ろしてきよった。ああ・・・これでわしもあやつらの仲間入りか。目をつぶったわしに冷たい鉄の塊が振り下ろされるのに、あまり時間はかからなかった・・・。(T)