20期課題研究より ②の3

今と昔の恋の詠

明けぬれば 暮るるものとは 知りながら

      なほうらめしき 朝ぼらけかな

私は朝が嫌い。

だって朝になると彼は仕事に行ってしまうから。

私は大学生で彼は社会人。

同棲を始めてわかったことはなかなか時間が合わないってこと。

彼の仕事はすごく忙しい。朝から晩まで働き詰め。

毎朝私を起こさないようにそろそろと家を出ていくのが愛おしいけど、やっぱり寂しい。

いっそアラームを止めてしまおうかな、なんて考えちゃう。

ずっと隣にいられればいいのに・・・。

私は夜が好き。

だって彼が帰ってくるから。

学校から急いで帰って晩ごはんの準備。

料理しながら、テレビを見ながら君のことを想ってる。

帰ってくるまであと何時間。カウントダウンが楽しくて。

時計の音を聞きながら、君を待つこの時間が好き。

君の「ただいま」が聞こえると、とても幸せな気持ちになる。

一緒に食べるご飯は何より美味しく感じるし、一緒に観る映画はどんなものより面白く感じる。

二人で一緒に眠る」ベッドは少し狭いけれど、君をもっと近くに感じられるから何も不満なんてない。

君が隣にいるだけで私の人生は何倍も色鮮やかになる。

隣で眠る君を見つめて私も眠りに落ちる。

この瞬間が一番幸せ。

ずっとずっと夜が続けばいいのに・・・。

私は真夜中が苦手。

だって隣にいる君がいなくなる朝が近づいてくるから。

夜中に目が覚めて隣にいる君を見るとなんだか嬉しくて安心。

まだ幸せな時間が続いてることを実感する。

だけど時間はどんどん進んでく。

朝がくるまであと何時間。カウントダウンが寂しくて。

時計の針の音がやけに速く聞こえる。

もっとゆっくり進んでほしいのに、針はどんどん進んでいく。

朝になればまた日が暮れて夜になり君に逢える。

そんなことはわかってる。

だけど君と少しでも離れなければいけない朝がくるのがすごく辛いし恨めしい。

このままずっと朝がこなければいいのに・・・。

あとがき

この歌は百人一首の五十二首目、藤原道信朝臣の歌です。

この歌も「君がため」の歌と同じく「後朝の歌」と呼ばれています。

一見悲しみや寂しさを歌った歌のように思えますが、「再会できることはわかっているけれど少しでも離れるのが寂しい」なんていうお惚気というか、初々しい恋人との交歓の喜びを歌った歌なのです。

とてもストレートに感情を歌っている歌なので、感情のつかみやすい歌の一つでもあります。

男性の詠んだ歌ですがとてもかわいらしい、若さあふれる歌ですね・・・。

藤原 道信朝臣(972~994)

 *藤原為光の三男

 *藤原兼家の養子となり従四位上・左近中将に昇進

 *二十二歳で死去

 *父の死後「限りあれば今日ぬぎすてつ藤衣はてなきものは涙なりけり」と悲しみの深さを表す名歌を詠み賞賛された

「夜が明ければ、また日が暮れて夜になりまたあなたに逢えるとはわかっているのですが、あなたと一時でも別れなければならない朝がくるのが恨めしい。」

                         (了)