20期課題研究より ②の2

今と昔の恋の詠

うかりける 人を初瀬の 山おろしよ

     はげしかれとは 祈らぬものを

 今まで俺は女の子に不自由したことがなかった。街を歩けばみんな振り返って俺を見る。声をかければ頬を赤く染めながら俺を見つめてくるんだ。

そんなモテモテな俺が興味を持っているのがクラスの委員長。

実は昨日、俺はいつもの調子で彼女に声をかけてみたんだ。彼女もみんなと同じように真っ赤になるかななんて思って見ていると彼女はこう言ったんだ。

「邪魔。迷惑なので話しかけないでください。」

そんなことはじめて言われた俺はすごくびっくりした。でもそれと同時に彼女に興味がわいたんだ。周りとは違う反応の彼女が僕を見て真っ赤になる姿を見てみたいって思った。そんな軽い気持ちから、俺の奮闘の日々が始まった・・・。

 まずは放課後、彼女を遊びに誘った。そしたら「あなたと遊ぶくらいなら勉強したい。」だってさ。うーん、なかなか手厳しい。

放課後がダメならお昼ごはんだ!って彼女を誘ったけどお断り。俺と一緒じゃ食欲がわかないらしい・・・。

それから学校内でも放課後でもいっぱいアプローチしたけど全滅。連絡先も教えてもらえないなんて・・・!

それでもめげずに、俺は毎日彼女に声をかけ続けた。

 こんな風に彼女に話しかけ続けて一年がたった。最初はまさかこんなに続くなんて思わなかった。彼女がもっと早く俺に心を開いてくれると思っていたのもあるけど、何より俺がこんなに彼女のことが気になり続けるとは思ってもみなかった。最初の一週間くらいで飽きて話しかけることもないだろうと思ってたけど、初めて彼女をしっかりと見てみて彼女の素敵なところを知ったんだ。クラスのみんなの分の仕事をまとめてくれたり、先生の手伝いを欠かさないし、さんざん「嫌いだ。」って言ってた俺のことも彼女は助けてくれた。そんな彼女の優しさを知って俺は彼女のことが本気で好きになった。

それから彼女に何回か「好きだ。」って伝えたけど彼女はいつもそっけない返事ばかり。さすがの俺も好きな子に嫌われ続けてるのは堪える。

だから俺はつい柄にもなく神頼みなんかしてしまったんだ。

"彼女が俺を好きになってくれますように"そんな願い事をするのは生まれて初めてで、なんだか気恥ずかしかった。

神頼みをしてから一週間。あれから初めて彼女に声をかける。ちょっと緊張しながらも彼女に挨拶をした。すると彼女はチラッと俺を見ながらも何も言わず俺の前を通り過ぎた。初めての対応に俺は戸惑った。今まで文句を言われたことはあっても無視をされたことはなかった。

これまで以上に冷たくなってしまった彼女に唖然としながら、俺は遠ざかる彼女の背中を眺めることしかできなかった。

ねえ、神様。

俺は彼女が少しでも俺を好きになってくれるように、少しでも彼女との距離が縮まるようにとお願いをしたんです。

彼女がこれまで以上に冷たくなるようになんて願ってもいないのに・・・。

あとがき

この歌は百人一首の七十四首目、源俊頼朝臣の歌です。

この歌は「千載集」の詞書によると、藤原定家の祖父・藤原俊忠の屋敷で「祈れども逢わざる恋」という題で詠んだ題歌の一首です。

歌は、初瀬の山から吹き下ろす嵐に呼びかける形をとり、報われない辛い恋心がたかぶるさまが巧みに表現されています。

素直で純粋な恋心を描き、激しい感情の動きを「山おろしよ」と字余りで詠んで際立たせる。

そんなところに、言葉を自由自在に操る作者の真骨頂が感じられます。

源 俊頼朝臣(1055~1129)

 *大納言経信(つねのぶ)の三男

 *雅楽の「ひちりき」を得意とし、堀河天皇の楽人となる

 *和歌の才能が認められ、白河天皇の命で「金葉集」の撰者となった

「(私に冷淡で)つれないあの人が、私を想ってくれるようにと初瀬の観音様にお祈りをしたのに。まさか初瀬の山おろしよ、お前のように『より激しく冷淡になれ』とは祈らなかったのに。」

                     (了)②の3につづく