2学期始業式で伝えたかったこと

今日(8月24日)は2学期始業式の日です。感染予防や熱中症予防に配慮して放送による始業式を行いました。冒頭にお話をしたのですが、生徒のみなさんの顔が見えませんので私が伝えたかったことが伝わっているのか不安です。そこで、今日お話ししたことに少し補足も加えて纏めてみました。ご覧ください。まずは、私が生徒のみなさんにお話しした内容です。

夏休み前の1学期終業式で2つの話をしました。ひとつは元宇宙飛行士土井先生の「ミラクルサマー」の話、もうひとつは「幸せな人生」ということに関する話です。みなさんの中には、この夏休み中にまさにミラクルサマーと言える経験をした人がいるようです。学校ホームページの校長ブログで紹介していますので、是非読んでみてください。私は、終業式の話の最後に"大学受験は「自分らしく生きる」ための武器を手に入れるチャンスだ"という言葉を伝えました。今日はその続きで、2つのお話をしたいと思います。一つは、ピグマリオン効果の話、もう一つは、自己成就的予言の話。どちらも心理学の用語です。

ピグマリオン効果というのは、他者からの大きな期待(強い願い)が現実化するという働きのことです。そして、その具体例としてよく挙げられるのが「賢い馬ハンス」の話です。20世紀初頭のベルリンにハンスという名前の賢い馬がいました。これは実話です。ハンスは計算ができる馬でした。飼い主が問題を出すと、その答えの数の分だけ馬蹄(ひづめ)を地面に打ちつけます。これが大評判となって、心理学者を含む大勢の観客の前で披露することになりました。そこで、遂にハンスの秘密が明らかになりました。ハンスは計算をしていたのではなく、飼い主の微細な表情の変化を読み取っていたのです。飼い主は、強い信念を持ってハンスが賢い馬だと信じて疑わなかったので、自分でも気づかないうちにハンスが答の数だけ馬蹄(ひづめ)を鳴らした瞬間に安堵の表情を見せていたようです。観客の誰もが気づかないその微妙な表情の変化を、ハンスは読み取っていたということになります。飼い主は、ハンスは賢い馬だと信じ、賢い馬であり続けてほしいと強く願っていた。その願いが結果としてハンスを計算ができる賢い馬にしたのです。正確に言うと、実際には計算ができる訳ではなかったけれどもハンスは表情を読み取る能力を持った賢い馬であり続けたということになります。これがピグマリオン効果です。

ピグマリオン効果は教師期待効果とも呼ばれています。1960年代にアメリカの小学校で行われた実験により、教師が大きな期待を持って接した子どもはそのことを感じ取り、期待に応える結果を出すということが証明されています。期待を感じ取った子どもが、その期待に応える方向の行動をとった結果、期待する結果が現実のものとなったということです。

次は自己成就的予言の話です。自己成就的予言とは、強い思い込みが無意識のうちに行動を生じさせ、その思い込みが実現することを言います。私たちはコロナ禍でマスク不足を経験しましたが、これがまさに自己成就的予言の例です。マスクが足りなくなるんじゃないかという不安が、今にも深刻なマスク不足が起きるという根拠のない思い込みになり、その心理が買占めという行動を起こさせ、結果として本当にマスク不足という現実を招きました。これがネガティブな自己成就的予言の例と言えます。が、今日話をしたいのはポジティブな自己成就的予言の例です。これも実話です。私の出身大学の柔道部の2級先輩がロサンゼルスオリンピックで金メダルを取りました。その先輩はいつも謙虚で、ストイックに努力を重ねるタイプの人でした。我々後輩はテレビにかじりついて応援していました。決勝戦の相手は優勝候補筆頭で、先輩はその相手に一度も勝ったことがありませんでした。が、なんと、見事な巴投げで一本をとってしまった。自分たちにとっては本当に身近な人が金メダルを取ったので、みんなテレビの前で涙を流しながら喜んだのですが、その直後にびっくりすることが起きました。優勝インタビューで「決勝は勝てると思っていましたか」と問われた時、先輩が「勝てると思っていました」と答えたのです。あの謙虚でストイックな先輩がなぜ?とびっくりしました。この疑問は、後日、この先輩が講師をつとめる講演会に参加したとき解けました。曰く、オリンピックに向けて思いつく限りの準備をして、もうやることがなくなった...だから少しでも善い行いをしようとゴミ拾いを始めた...すると、ゴミ拾いをするうちに、ここまで努力を尽くした自分だから金メダルが取れないはずがないと信じ込むことができるようになったというのです。このエピソードが答になりました。これこそまさにポジティブな自己成就的予言と言えます。ゴミ拾いをしている自分はすべての準備をやり切った人間だから必ず金メダルがとれるという、科学的根拠のない思い込みが決勝戦の見事な勝利に繋がり、金メダリストになるという現実を引き寄せました。自分を信じ切ることが望む結果を導き出したという典型的な例と言えます。

さて、私が今日言いたいことは2つあります。1つは、受験にしても部活動にしても探究活動にしても、自己成就的予言ができるくらいの準備をめざしてほしいということです。ここでいう準備というのは決して長い時間をかけろということではなく質の問題です。目標を達成したとしても、万一届かなかったとしても、結果に心から納得する方法はこれ以外にありません。

もう一つ伝えたかったことは、みなさんにはピグマリオン効果が働いているということです。三国丘高校の先生たちは全員、みなさんに期待しています。今、思うような成果が出ず暗闇の中でもがいている人もいると思いますが、三国丘高校には一人きりで戦っている人はいません。私たちはいつも応援しています。我々教員がみなさんに抱いている期待というのは、難関大学に何人入るとか、大会で入賞するとかではありません。みなさんが怯まずに高い目標にチャレンジして、それぞれが納得できる結果を残すことです。目標に挑戦するという言い方をすると苦行のように聞こえるかもしれませんが、何かに挑むというのは本来楽しいことです。みんなで刺激しあって、それぞれのチャレンジを楽しむ...そんな2学期にしてほしいと願っています。

以上が話の内容です。私がこんな話をしたのは、孤独を感じる生徒をなくしたいと思ったからです。夏休み中に、進学フェアや地区合同学校説明会で中学生やその保護者のみなさんに学校のことをお話しする機会がありました。説明をしながら実感したのは、三丘生は本当に忙しいということです。勉強だけじゃなく部活動だけでもなく、すべてのことに前向きに取り組むのが三国丘高校の文武両道であり、そのことが三国丘高校の特長と言えます。無限の可能性を秘めた高校生がその可能性を追求できる環境こそが大事だと思うし、そんな環境が整っているのが三国丘高校だと思っています。一方で、もっと大事なことは、物的のみならず心的にどんな環境で自分の可能性にチャレンジするかということだと思っています。そのことを強く感じたので、こんな話をしました。地道な努力をする過程では孤独を感じることもあると思いますが、そんなときに応援してくれる存在があることを意識してくれたらなぁと願っています。三丘生は志を高く持って自分が納得できるところまで努力してほしいと思いますし、そのためには頑張る生徒を一人にしてはいけないと感じました。そんなメッセージが伝われば嬉しいです。