2学期始業式でフィリピンのお話をしました!

 このブログを読んでくださっている大人のみなさんに質問です。あなたが高校時代に(始業式や終業式、入学式や卒業式で)校長先生から聴いた話を1つでも憶えていますか?私は1つだけ憶えています。その校長先生はいつも「え~、今朝の○○新聞にはねぇ...」と話し出すのが特徴で、生徒たちはみんな面白おかしく真似をしていました。私が憶えている話は、今ではみなさんご存じの有名な逸話ですが、喜劇王チャップリンが「あなたの最高傑作は?」と訊かれた時いつも「The next one」と答えていたという話です。なぜこの話だけずっと心に残っているのか全くわかりません。

 こんな経験があるからかもしれませんが、自分が校長になった時に強く思いました。1つでも良いから生徒に憶えていてもらえる話をしたい...と。

 けれど、これは私にとって超難問です。試行錯誤を繰り返し、辿り着いた答えは"経験に勝るものはない"ということです。いつもいつも経験を語れるわけではありませんが、何かの本で読んだ素晴らしい教訓を語るより、自分が遭遇した場面やその時の気持ちを語るほうが訴求力はずっと強いと思うようになりました。

 前置きが長くなりましたが、昨日(8月23日)の始業式で私がお話したことをお伝えしようと思います。少し長くなりますが、是非お付き合いください。

〈2学期始業式 校長挨拶〉

この夏、フィリピンに行ってきました。フィリピン研修の引率です。私がこれからお話しすることが起こったその日は、日々の生活がとても苦しい人たちが住むエリアを訪問した日です。みんなバスに戻ってきて、いよいよ発車しようとしたとき、お腹の大きなお母さんが2歳くらいの子どもを抱いて、私たちのバスに乗り込んできました。物乞いです。

現地のガイドさんが、バスを降りるように言ってくれているようでしたが、降りる気配は全くない。そればかりか、生徒が座っている座席の方まで来そうな勢いでした。こんな状況で、みなさんが私の立場だったらどうしますか?考えてみてください。

 その時、私は、財布を握りしめていました。このままだとバスは発車できない。発車できないと生徒たちを次の目的地に運べない。埒が明かないなら、この親子にお金を渡して、バスを降りてもらうのが最善の策ではないかと考えていました。そうすれば、この幼子は何か食べさせてもらえるし、今日1日だけでも物乞いをしなくて済むなら、 お母さんも少しは体を休めることができる...そう考えました。

 私は、ガイドさんに、小声で「お金を渡しましょうか?」と尋ねました。ガイドさんは片手で私を制するようにして、はっきり「だめです」と答えました。私は、なぜだめなのか少しも理解できませんでしたが、きっと何らかの理由があるのだろうと、心を鬼にして「No!」と大きな声を出しました。No!」は2歳の子どもにもわかる言葉です。その一瞬、私には、子どもが寂しそうに私の顔を覗き見たように思えました。 同時に、凄まじい罪悪感が襲ってきました。

 バスは走り出し、私はガイドさんに訊きました。なぜ「だめ」だったのか?ガイドさんは「薬物中毒の顔」だったと教えてくれました。もし校長先生がお金を渡しても、子どものミルク代にはなりません。大麻か覚せい剤になるだけです。 ...そう聴いたとき言葉を失いました。

 マニラは急速に経済発展している街です。大阪ではお目にかかることのないような大きなビルやマンション群がどんどん作られています。私たちが行ったショッピングモールも迷子になるくらい大きかったし、おしゃれをした多くのフィリピン人が行き交っていました。そこから車で何10分も離れていないところで、物乞いをする親子がいるのです。この経験は、絶対みんなに伝えようと思いました。そして、あの時無力だった自分を一生涯覚えておこうと思いました。

  似たようなドキュメントはテレビで観たことがありますが、現実とは別物です。あなたが、もし私と同じ経験をしたとすれば、そこから何を考えますか?不幸な子どもを増やさないために自分には何ができるのか?考えるでしょうか。薬物依存を断ち切るための新薬の開発をしようと心に誓うでしょうか。生活苦に寄り添い、支援の輪を広げる人になろうと思うでしょうか。人が進むべき方向というのは、こんな感じで決まっていくものかもしれません。

 まだ、自分の進む道を決めていない人は、今のうちにたくさんの経験をしてください。どんな小さなことでも良いから、何かを感じたら書きとめてください。 やりたいことが決まっている人は、なりたい自分を想像してください。その自分が誰かの役に立っている姿を思い浮かべてください。そして、今あなたが描いている未来は、本当に自分で描いた未来なのか、もう一度考えてみてください。

 自分以外の誰かの期待を背負っているだけなら、それはあなたの未来ではありません。自分が進む道は、自分で決めるものです。あなたの人生はあなたにしか歩めません。幸せの定義は「自分らしく生きること」だと私は思っています。

 今日のお話はこれでおしまいです。まだまだ暑い日が続きそうです。体育祭の準備も大変でしょうが楽しんでください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。