三丘セミナーは、三国丘高校の教育の背骨のような存在です。高校時代にしっかり勉強して難関大学に合格する生徒は他校にもたくさんいます。中学生やその保護者のみなさんも、そんなことも考えて高校選びをするのではないかと想像します。しかし、本当は、その後のことこそしっかり考えなければいけないと思うのですが、どうでしょう?
冒頭からわかりにくいことを書いてしまいましたが、要するに高校を卒業して10年後のことこそ考えるべきと思うのです。例えば、大学で4年、大学院の修士課程で2年、博士課程で2年、これで8年です。その2年後に何をしているかというところまで考えて高校を選ぶことが大事じゃないかという問題提起です。これは、校長としての私見ですので絶対正しいとは言いませんが、夢でも良いから将来の自分を描けている人と、そこに霞がかかっている人では、勉強をするモチベーションも違うし、いざ志望大学に合格した後の姿勢も違うと思うのです。スタートが違えば、当然、10年後も変わってきます。この差は想像しているよりずっとずっと大きいと思うのですが、みなさんはどう思いますか?
「将来の自分を描く」と言いましたが、そのために不可欠なことは、今、ホンモノに触れることです。高校生の今、その世界のトップを走る人に直接会って、話を聴くことが必要です。そして、その機会を与えるのが「三丘セミナー」なのです。このブログでご紹介する 山本 一彦 先生(本校卒業生)は、まさに、世界のトップを走っている方です。ご講演の中から、私がみなさん(三丘生や中学生のみなさん)にお伝えしたいことを書きます。読んでください。
先生のお話は、最初から鼓動が速くなるような話ばかりでした。まず、「生物工場」という言葉が出てきたことにびっくりしました。SF映画でも見ているような気分です。先生曰く、人口増や食料不足・水不足、気候変動などの影響で、人類と地球環境の共存は不可能だということでした。この難局を乗り越えるために必要なのが「生物工場」だというのです。科学の進歩により、生物はデジタル情報化されているそうです。これを使ってバイオ産業を振興させ、持続可能な「生物工場」を建てることが解決策だというのです。なんか、俄かに信じにくい話ですが、2022年の9月には、米国で、バイオ産業振興に関する大統領令が出されているそうで、バイデン大統領は30兆ドルの経済をバイオ産業に置き換えると宣言したそうです。その時は、米国で発見されたものはすべて米国で生産すると言っていたそうですが、その1年ちょっと後の2023年12月には、米国に限らず日本などの同盟国も含めた世界で展開すると言い直しているそうです。
生徒のみなさんは知らないでしょうが、1980年代は、世界の半導体の半分は日本で製造していました。このバイオ版ともいうべきものが日本で起こりつつあると言います。ニュースで見たことがある人も多いと思いますが、今、熊本がバブルになっています。台湾のTSMCという会社が進出し、日本の企業も次々と移転しているそうです。
さらに面白かったのは、ゲノム編集とDNA構成のお話です。この研究が盛んで、世界をリードしようという戦略に出ているのが米国で、日本がこれにどれだけ対抗できるかが問題だそうです。例えば、治療法のない病気にかかってしまった子どものことです。この子を救うにはDNAを書き換えるしかありません。ゲノム解析をし編集しDNAを合成できたら、この子の命は助かります。もうすぐ、遺伝子治療薬が米国から出るかもしれないというお話も伺いました。ゲノム編集ツールを搭載したウイルスを作ってこれを接種することで、ウイルスがDNAを書き換えて病気を根治させるという構想まであるそうです。
先生は、大学院の教授であると同時に企業の社長でもあります。先生の会社では、世界で初めて通常より長いDNAを作り、このような治療にも役立っていると伺いました。先生は、ディープサイエンスのスタートアップはF1と同じだと仰います。小さいけれど専門性の高いスタッフがチームを組まないと始まらない...チームビルディングとパッションが何より大事というメッセージを残して、先生の講演は締めくくられました。
聴いている生徒の目が輝いているのがよくわかる90分間でした。山本先生(先輩)、ありがとうございました!
山本先生は、受講生全員に著書「バイオものづくりへの挑戦~勃興するバイオエコノミーと岐路に立つ日本」をプレゼントしてくださいました。先生のお話を聴いて、さらに、この本を読んで、この世界に進む三丘生が出てきたら素敵だなぁと思いました。