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物理の先生方も受講する 三丘セミナー!素粒子原子核研究所教授の講演

 びっくりしたのは、期末考査の採点で大忙しのこの時期なのに、会場となった視聴覚教室に物理の先生が3人も座っていたことです。勿論、三丘セミナーは生徒のためのセミナーなのですが、この講演は、物理の専門家にも聴き逃せないお話しだったということになります。

 講師は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授の 三原 智 教授。テーマは「素粒子物理学と加速器、研究者としての歩み」です。三丘生の中には、将来、研究者になりたいという志を持つ生徒もいますので、このテーマはありがたいと思いました。最初にこのテーマを見た時は、正直言って、もし、素粒子物理学の話が難解でも、研究者の歩みの話をしてくださったら生徒も満足するだろうと極めて失礼なことを考えていました。

 しかし、一瞬にして、私のこの考えが間違っていることに気づかされました。講師の話に引き込まれていく生徒の意識が目に見えるような空間でした。先生の話し方がとても優しく、噛み砕いた(或いは、身近な例を挙げた)説明であったことから、私でさえ、何となく理解したような気分になっていました。以下、学問的ではないかもしれませんが、私が、あぁ、そうなんや!と思ったことを書きます。三丘生も中学生も、構えずに読んでください。

 まず、私の疑問は「加速器って何?」ということでした。ありがたいことに、先生の説明もそこから始まりました。加速器とは"電子・陽電子・陽子にエネルギーを与えて加速する装置"とのことでした。エネルギーを高めるためにはこれらを衝突させるらしく、加速器という設備は長い長い距離が必要ということでした。加速する効率を高めるため円の形になったトンネルみたいな大きな施設があるということで写真を見せてもらいましたが、これを見ると、私でも、あぁ、どこかで見たことある!と思えました。でも、ここから先が私には未知の世界でした。丸いと、曲線部分でエネルギーが減ってしまうというのです。難しい理屈はわかりませんが、それなら真っ直ぐにしたら...と素人考えを巡らせましたが、実は、そのまんまの計画が実際にあるそうです。全長20Kmの直線の加速器を計画中だそうです。しかも、三原先生は、このプロジェクトにも関わっておられるとのことでした。三丘セミナーは「ホンモノ」に出逢う場所!ですので、まさにこの瞬間、三丘生は今ホンモノに出逢っている最中だと思えました。

 このあたりまでは、わかったような気分でしたが、話の規模が大きすぎて実感が湧かないという感じは否めません。が、次の話で何かがスッと腹に落ちた気がしました。社会で使われている加速器の話です。"中性子は水に跳ね返される"という性質を使って橋や道路の地下の状況を検査することに加速器を使っているそうです。小型の加速器をトラックに載せて、地面に向けて中性子を飛ばすと、地中の隙間(亀裂)に溜まった水に反応するというのです。工事をせずに橋や道路の地中の様子を知る有効な手段として活用されていることを教えていただきました。

 我々の健康を守る医療にも加速器は活用されているそうで、そのことについても教えていただきました。例えば、重粒子線治療。これは、炭素の原子核を加速させがん細胞にピンポイントで当てる治療だそうです。また、BNCTという治療は、まず、患者さんにホウ素を含む薬を飲んでもらい、その後、中性子を当てると、ホウ素の"中性子を捕まえやすい"という性質が作用して、がん細胞だけを殺すことができるということでした。加速器の存在がぐっと身近になった気がしました。

 最後は、研究者を取り巻く環境や、研究者になろうと思っている三丘生へのアドバイスです。まずは、研究者を取り巻く現状です。先生が研究者になられた頃と違い、今は、研究者の進む道が広がっているということでした。昔は大学の教員くらいしかなかったけれど、今は、企業や公的機関、海外の研究機関等選択肢が多くなったと教えていただきました。

 続いては、アドバイスです。前提としては「研究者は失敗の繰り返し」ということを理解しておくこと。その上で、なるべく同じところに居ないこと(研究者は経験が重視されるので、複数の場所で活動する方が良いという意味)、先見に囚われないこと(常に、自分が何かを発見するんだという意識を持ち続けること)、時々振り返ること(研究者は不安になるので、時々振り返ることが精神衛生上も大事)、「なぜ」を続けること、が大事だと教えていただきました。私が興味深かったのは、最後の、「なぜ」を続けることです。先生が例を挙げてくれました。骨折した友人とあなたとの会話です。

 あなた「なんで骨折したの?」→友人「水溜りが凍ってて、そこで滑って転んだんだよ」→あなた「なんで氷は滑るの?」・・・ここから先は物理の話になっていきます。研究者になる人って、こんなことを考えてるんだなぁとはじめて知りました。とても勉強になったセミナーでした。

 始まる前は授業と同じで「起立」「礼」です。

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