<式辞>

保護者の皆様、この三年間のご支援、ご協力に感謝申し上げますとともに、お子さまの栄えあるご卒業を心よりお喜び申し上げます。

さて、第45期卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。3年前に本校に入学し、振り返った時、皆さんはどんな足跡を残すことができたでしょうか。皆さんにとって充実した3年間になったでしょうか。

 思い返すと、皆さんが入学した年の平成30年6月18日には大阪北部を震源とする地震が発生し、多くの人が被災しました。学校も臨時休校になり、皆さんも不安な日々を過ごしたのではないでしょうか。また、昨年2月からは新型コロナウイルス感染症により世界中の多くの人達が罹患し、日本でも緊急事態宣言が発令され、臨時休業になるなど、皆さんの学びにも大きく影響を及ぼす事態となりました。昨年6月には、学校は再開されましたが、新しい生活様式の中、制限された生活を送ることとなりました。

 皆さんは、これらのことを経験して、何を学びとりましたか?それぞれが感じることは異なると思いますが、少なくとも共通して次の事は私たち全員が学んだことではないでしょうか。

一つめは、「命の尊さ」です。宇宙で生命が誕生する確率は実に10の4万乗分の1だそうです。1億が10の8乗ですから、途方もない確率です。そして、今生きている自分自身が生まれてきた確率も、実に1400兆分の1であり、まさに奇跡の中で誕生してきたことになります。ジャンボ宝くじの当選確率は2000万分の1と言われていますので、その確率の小ささに驚くのではないでしょうか。そんな命を一瞬にして奪ってしまうのが自然災害やウイルスなのです。だからこそ、その奇跡を認め、限りのある命と真剣に向き合い、精一杯生き抜くことが求められるはずです。

二つめは、人との繋がりです。震災時には、多くの人が被災しているにも関わらず、互いに助け合いながら生活することの大切さを、身にしみて感じたはずです。決して一人で生きて行くことができないこと、例え自らが苦しい状況でも、周りのことをしっかり見つめ、苦しさを出さず、何も求めず、ただひたすらに手を差し伸べてくれた人、そんな数多くの人に出会ったはずです。また、感染症が流行期に入った際には、他者を思いやり、感染を広げないために、何をすべきかを考えるきっかけになりました。大切な愛する人を守るために、自ら取るべき行動は何かを必死に考えたはずです。人が一生のうちで今は知らない誰かと出会う確率は24万から240万分の1と言われています。出会いこそが奇跡であり、周りに対する優しさを常に大切にしながら生きることの大切さを再確認できたはずです。

三つめは、環境が変わることでなすべきことが変わるということです。マスクの着用や手指消毒が当たり前になった新しい生活様式もそうです。今はそれが当たり前になっているはずです。また、さまざまな学校種でオンラインによる学びが導入されました。社会ではテレワークが進み、必ずしも企業に出勤して働くことが必須ではなくなりました。まさに、働き方が変わってきたわけです。私たちは、そのことに敏感に反応し、変わることが「マイナス」ではなく、「プラス」になるように行動していくことが求められます。環境にあわせて、自らがなすべきことを即座に判断し、行動していけるようにすることを学んだはずです。

まだまだ学んだことはたくさんあるはずです。時代の中から、皆さんが感性で学び取ったものを、一つの財産として、今後に上手に活かしていかれることを期待しています。

さて、昨年度から延期されている東京オリンピック・パラリンピックですが、開催の可否については、まだ不透明な部分があります。もし、開催されることが決定されれば、5か月後には、各種目で世界中のアスリートを東京に集め偉大なるスポーツの祭典が行われます。そして、それはオリンピック憲章に基づいて行われる必要があります。このオリンピック憲章とは、オリンピックの在り方や運営について決められた規約のことをさします。そこには「差別を伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行われるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい社会をつくることに貢献すること」と目的を記してあります。ここにもあるように、めざすものは平和でよりよい社会です。近代オリンピズムの生みの親であるフランスの教育者ピエール・ド・クーベルタン男爵は、「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである。人生で重要なことは、勝利することではなく闘うことである。その本質は打ち克つことではなく、よく闘ったことにある」という言葉を遺しています。この言葉の意味を皆さんなりに考えてみてください。巷では、「勝ち組」「負け組」というような表現を使うことがありますが、精一杯生きている人に「勝ち」も「負け」もありません。そこにあるのは、自らに打ち克とうとする心と、精一杯取組み抜いた自らがいる他ありません。ですから何かを成し遂げた際には、自分に向かって「よくやった」と褒めてあげてください。そして、新たな次の足跡を残す方法を考え、常にポジティブに、まさにクーベルタン男爵が言う「闘うこと」を生きる価値として持てるようになって欲しいと願います。

話しは変わりますが、卒業にあたって皆さんに幾つかのお願いがあります。まずは、常に感謝の気持ちを持って、これからを生き続けて欲しいのです。その最初に、ここまでの学びを保障してくれた保護者の方々に「ありがとう」と一言、言葉にして欲しいのです。思いは持っているだけでは伝わらないことがあります。恥ずかしいかも知れませんが、言葉にすることで相手に伝わることもあるのです。たった一言「ありがとう」それ以外の言葉はいりません。小学校から数えると12年の学びを保障してくれたのです。今度は、皆さんの番です。「ありがとう」の言葉を区切りに、今度は皆さんが自分で道を見出し、自らの意思で歩んでいって下さい。きっと、その後ろにはいつまでも暖かく見守ってくれる保護者の方々の笑顔があるはずです。次に、高校生活で得た友をいつまでも大切にしてください。喜怒哀楽の全ての時間を3年間共有した友がいるはずです。その友の存在をいつまでも忘れないでください。いつか、苦境に立った時、そっと手を差し伸べてくれるはずです。そして、高校生活で交わした何気ない言葉が、皆さんに勇気をくれることになるかもしれません。そして、最後に皆さんの後輩たちに思いを馳せてください。皆さんも、数多くの先輩に見守られて、本校での生活を終えていきます。今度は、皆さんが同じ校舎で生活を刻む後輩たちに、期待を持って島本高校を託してください。そして、ある時そっと手を差し伸べて、後輩に力を与えてください。一生のうちで、母校と呼べる高校は唯一つしかないのです。本校を卒業したという誇りを持って、社会を堂々と生き抜いてください。今後、ますます成長を続ける皆さんに大いなる期待をしています。

 結びになりますが、保護者の皆さまに改めて御礼申し上げます。3年間、本校に最後まで大切なお子様をお預け頂きましたことに深く感謝申し上げます。誠にありがとうございました。今、3年間の学びを終え、卒業する皆さんは大きな希望と誓いを持って社会に飛び出そうとしています。一人で歩んでいこうとする皆さんを、これからも優しく見守ってあげてください。そして、時には人生の先輩として、厳しくも暖かい言葉をかけてあげてください。きっと、大きな壁にぶつかったとしても、それを乗り越える大きな力を身に着けているはずです。そして、お子さまを信じて背中を押してあげてください。その時には、見違えるような姿を見ることができるはずです。よろしくお願いします。また、卒業生の皆さんには、最後に「一日一生。一日は貴い一生である。これを空費してはならない。」という言葉を贈ります。

令和3年3月2日

大阪府立島本高等学校 校長 伊藤 義孝