てのひらの小説 『オールドワールド』(中)  幌月

『オールドワールド』 (中 2/3)   幌月

 ※ (上)からお読みください。 ※

 

◇◆◇

次の日の放課後、ホームルームが終わると私はすぐにあいつのいる教室へと駆けた。
そのクラスももうホームルームは終わっていて生徒たちは帰宅する者、残って雑談の輪を作る者とたくさんいた。
私が探しているそいつもまた、教科書をカバンにいれて帰宅する準備をしていた。
「パルシー!」
私の声に気づき目をこちらに向けた。準備する手は止まらない。
「...誰だ」
「知っているだろう」
「...」
「グラビティーだ、覚えておけ」
「...何の用?」
パルシーは私が次に言うセリフなんて見透かしてるはずだ。
その目を見ると、私が言わずも返事はわかっている。
「野球、しないか」
やはりな、小声でそう言ったのが聞こえた。
「...断る、大体、メンバーが全然足りてないじゃないか」
「集めるんだ。パルシー、君にも協力してほしい」
「...最初に断ったはず。...私はもう、野球はしない...」
「どうしてだ?」
「...」
「私は思うんだ、皆が抜けていった理由が『一年生は試合に出場できない』だったら
あと一年頑張ればよかったじゃないか。...他にも理由があるんじゃないか」
「...レジスタンスに聞けばいいじゃない」
「教えてくれなかった」
「...錠子もいるでしょう」
「君のほうがもっと確かな情報を知っていると思ったんだ」
「...それを教えたら、もう私を野球に誘おうなんてことはしない?」
「考える」
教室の中は私たち二人の声が静かに響いていた。
雑談していた女子たちももう帰り、外は夕焼けに染まっていた。

「グラビティー!ここにいたのか」
教室のドアが大きな音をたてて開いた、レジスタンスだ。
「...! パル...」
「...久しぶり、レジスタンス」
「お前もまた一緒に...」

「やらないわ」
レジスタンスの顔は少し歪んだ。
「パルシー、お前のやりたくない理由はわかる。
...そこのグラビティーと勝負してみないか」
「何?」
「...」
「一週間でグラビティーを育てあげる。それで勝負してやってくれ。
グラビティーからヒットを打てたらお前のことは諦めるよ」

勝手に約束が進められているが、レジスタンスは私よりもパルシーの扱いを知っているはずだ。
私はそのことを思ってしばらく黙っていた。
パルシーは少し考えたが、了承した。
私が一週間で成長するなんて思っていないんだろう。
その行為は私にとって挑発に思えた。

キッと睨みつけると、パルシーは微笑を浮かべた。


その場で私はパルシーと別れレジスタンスと共にグラウンドへ向かった。
すでに錠子と鍵男が二人で遠投練習をしていた。
ところで見慣れない三人がいる。
「ああ、あいつらな。昨日の練習を見ててまたやりたいって入ってくれたんだ」
外野担当の仲良し三人組。
金髪の流れるような髪をなびかせるエメラルドグリーンの瞳を持った幼い印象があるショートアウト。
銀色の髪でダルそうに投げているが、その動きは俊敏そのもの、羊の角のアクセサリーが似合うのがオーバータイム。
そして二人が投げる球を着々と一つずつ正確にヒットを出していく黒い髪の少しチャラチャラしたのがファーレンと言うらしい。
三人ともこちらに気づいたようで、帽子をとってお辞儀した。私も少しだけそれに返した。
「彼女たち三人は強力なアベレージヒッターだからな、助かったよ」
「でへへーレジに褒められちゃったよー」
「(ありがとう・・・)」
「まぁね、レジスタンスたちが頑張ってんのに私たちも頑張らないわけにはいかないよ」

私はそれからずっと球速練習をしていた。
レジスタンスの指導で変化球のキレもよくなってきた。
フォークが得意だ。それと打ち取るための高速シンカーも投げれるようになった。
レジスタンスがシンカーはアンダースローの投手にとって非常に武器になるものだと教えてくれたので練習した。

一週間、私が一週間で成長すれば、パルシーが入ってくれる。そしてクラストも入ってくれる。
それで私たちは大会に出れるんだ。甲子園に行けなくても、皆で試合をすることができる。
レジスタンスの夢も果たせるんだ。

私が、頑張らなきゃ...。


◇◆◇

私は寝る時間を惜しんで必死に練習した、気づけば早い一週間だった。
それはまるで流星のようで、私の成長も銀河のようであった。

パルシーがグラウンドにやってきた。
他のみんなは端のベンチに座って静観している、一人、アイアンメイデンの上に乗っている者もいるが。

「...お前の目、変わった」
「?」
「...私を本気で入れようとしているな」
「私はあの時からずっとあんたを入れようとしているが」
「...まぁ、本人にはわからんよ」

「よし、そろそろやるぞ」
レジスタンスは装備一式を身につけ、サインの確認をした。

勝負の内容は一本勝負。
一回だけ打って、ヒットだったら私の負けだ。
ちなみにファールはカウントしない。

第一球、投げた。 内角低めの直球を見送る。
「...アンダースローか」
「すげーだろ、グラビティーのアンダースロー」
「ああ、磨けばもっとよくなるだろうな」

第ニ球、同じところを狙った高速シンカー。
バットにかすんだがファールチップ。

あと一球 三振を取ればいい。
レジスタンスのリードのもと、私はキャッチャーミットだけ見ればいいんだ。

第三球は...

「(直球...!)」

(ブォンッ!!)

大きなスイング、当たればホームランであっただろう。
しかし球はレジスタンスのキャッチャーミットにおさまっていた。

「なっ...?!」
「やったー!」

勝った...!勝ったぞ...!パルシーとの勝負に勝った!!

「...今の速さは直球のはず?一体なにを仕組んだ?」
「仕組んだんじゃないさ、あれはストレートじゃねえ」

そう、この一週間。私は得意のフォークを磨いていた。
レジスタンスに声をかけられたんだ、変化球をオリジナルにしてみないかと。

高速フォーク。私はついにこれを完成させた。
直球と変わらない速さを持った、『グラビテイトボール』を。

「この決め球があれば、きっと勝てる!」
「フッ...負けたよ、私の負けだ。いいだろう、サードは私に任せろ」

「これで黄金の内野手と黄金の外野手が揃ったな!!」
「えへへー黄金だって、私たち!」
「(嬉しいね)」

こうしてパルシーは私たちの仲間になってくれた。
クラストも次の日から練習に参加し、とうとう私たち重力ナインが揃った。


あとは 大会に 出るだけだ。

                                〈 (下)につづく 〉