小説 『こたつとみかん』

2012年、秋のオープンスクール体験授業「小説を書こう」で、真幌さんが実演執筆?してくれました。その作品をお送りします。 心暖まる作品をどうぞ。

 

『 こたつとみかん 』  真幌

「え、白波ちゃんって電気こたつしらないの?」
「知らない訳じゃない。掘りごたつしか見たことない」
「そんな人も大分と珍しいんだけど......家にないの?」
「ない」
 きっぱりと言い切った白波ちゃんは銀髪の髪をなびかせて歩く。家にこたつが無いなんて、私からしてみれば十二分に珍しい。おばあちゃんの家にも、リビングと私の部屋にもある。
「この寒い時期ってどうしてるの?」
「床暖房と乾燥しにくいヒーター」
「マンションに?」
「床暖房、だけど?」
 この時程、白波ちゃんがお金持ちだと痛感した日は無い。びっくりした。前からお金持ちだとは聞いていたけど、あれ?最近のマンションは床暖房って......あるのかな......。寒空の中、暖かそうなマフラーをして寒そうな顔をしながら、天を仰いで髪に似た白い息を吐く。髪の事もあって、友達らしい友達が少ないって話も聞いていた。どこか嬉しげな顔をしている白波ちゃんをじっと眺めた。
「まだ?」
「あそこの家だよ」
 今にも雪が降り出しそうな曇り空を見上げた白波ちゃんの背中を押す。
「何?」
「こたつでみかん食べよう。冬の風物詩だから」
「みかん......久しぶりに食べるかもしれない。今年はまだ食べてない」
急に楽しそうな声を出して頷く。実は私もまだ食べていなかったりする。昨日の晩、珍しく、日付が変わる前に帰ってきたお母さんが何を思ったのか、みかんを買ってきた。時間は十一時を少し回っていて、食べる気も起きなかったから「明日食べる」とそのまま寝てしまった。朝起きるとお母さんはいなくて、私よりも早く起きたのか、はたまた会社へトンボ帰りしたのか、定かではないけれど、とにかくいなかった(朝ごはんが無かったから恐らく後者なのだろうとは思う)。
「ここ?」
「うん」
「ひなたの家族って、お母さんだけじゃなかった?」
「裏も表も無くドストレートに聞いてくるのは白波ちゃんが初めてだよ。本当に」
「あ、そ。庭も綺麗にしてあるし、広いね」
「あぁ、それは私の趣味。家に一人でいるとどうにも暇になって」
「へぇ......。」
「まぁ、あがってよ。珍しいものなんて無いから」
 ポケットから取り出した鍵でドアを開けて、そのまま招き入れると、「お邪魔します」と靴も揃えて入ってくる。ただ、その後すぐに「みかん」と小さく呟かれた一言に思わず笑った。そんなにみかんが食べたかったのか。
「こたつ、電気入れたから入ってて」
「ん」
「寒かったらその辺りにあるブランケット使って、後そのリモコンはテレビのだから」
「んー」
思った以上に良かったのか、間延びした声で返事をしてくる白波ちゃんの、学校とはまた違った一面が見れて私としては嬉しい限りだ。台所に袋に入れられたままのみかんを編まれたかごの中にだして、緑茶を温める。お盆にクッキーも入れて再びリビングに戻ると、幸せそうに笑っていた。
「白波ちゃん。みかんとお茶」
「ありがと」
 すっと背筋を伸ばしてみかんの皮を剥く白波ちゃんの顔はやっぱり嬉しそうだった。無言で剥き続けるものだから、適当にテレビをつければ、再放送らしきクイズ番組がやっていた。二人でこの答えはどうとか、この問題間違えてる。とか話しながらのんびりとしていると、五時を過ぎていた。 もう、いくつめか解らないみかんを剥きながら、白波ちゃんに聞く。
「晩御飯、食べていく?」
「いいの?」
「うん。大した物は作れないけど、二人鍋でもしようよ。こたつで」
「いいね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
いくつもみかんを剥いた指は黄色くなっていて、それをじっと見つめていると、みかんを口に入れてきた。突然の事に慌てた私を見て、白波ちゃんは声を上げて笑った。

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