夢十夜「第十一夜」 その壱

20期生 1年の1学期。 漱石の『夢十夜』を読んで、『第十一夜』を書いてみました。

その中の数編を、順次ご紹介していきます。 先ずは3人の作をどうぞ。

 

『第十一夜』   球磨川禊

 こんな夢を見た。

私は悪霊にとり憑かれた。その悪霊は一般人には視ることも感じることもできないというものだった。そいつには「すべてを『なかったこと』にする」という能力があった。それを試してみたくなった私は、手始めにその日の「課題」を『なかったこと』にした。すると、翌日から学校で「課題」が出されることはなくなった。どうやら「課題」という概念が無くなってしまったらしい。そのことに気付いているのは私だけだった。面白くなってきた私はこの世のあらゆるモノを『なかったこと』にしていった。

気が付くと、世界はいつのまにか私だけになっていた。

全てに退屈し、そして全てに満足した私は、最後に「自分の存在」を『なかったこと』にした。

 

 

『第十一夜』   いまみやM

 

こんな夢を見た。

朝、目が覚めて、顔を洗おうと洗面所へ向かい鏡の前に立つと、いつもと分け目が変わっていた。寝ぼけていて気が付かなかったが、よく考えてみれば、家の間取りなど全てがいつもと反対になっている。どうやら私は、鏡の世界へ来てしまったようだ。

 私が、家の中をうろちょろとして困惑していると、母がこっちへ来て「ご飯できたよ。」と言った。この鏡の中の世界でも、いつもと変わらない日常が続いているのだと思った。

 リビングに行き、右手にお箸を持ち、左手にお茶碗を持った。しかし、いつものようにうまく使えない。鏡の世界では、利き手さえも反対になってしまうようだ。そうして、左手に箸を持ち替え新鮮な気持ちで食べていると、目覚ましがなった。

 その日の二度目の朝食は、変な気分がしたのであった。

 

 

『第十一夜』   おでたま

 

こんな夢を見た。

気付いたら私は町を眺めていた。

町全体を眺めている。

地面に足は着いていない。

そうか、ここは空なんだ。と気が付いた。

雲がプカプカ浮いている。風船が遥か上へ上へと飛んでいく。

周りに人なんて誰もいない。

普段飛んでみたいと思う空であっても、一人はさみしいなと思っていると、

どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。

どこか懐かしい幼い声だ。

どこから聞こえているのだろうと辺りを見渡せば、

私の幼い頃にそっくりな女の子がいる。

彼女は私に何を迷っているの。今を楽しめばいいじゃないと言った。

その時私は考えた。

確かに今の私は何をするのか迷っていたが楽しい気分でいた。

彼女に私はそう見えなかった。

私は今青く広い空に浮いている。

私の心も何も考えず浮いているのだろうか。

何にも縛られず自由に出来る大きな空間なのに。

大事なことに気が付いた。

 

彼女はもう目の前にはいない。

 

私は今立っている。

 

 

〈 了 〉  「その弐」につづく......