GR

 式辞の中の、緑、英語ではGreen。生命を育む。Ground、大地は命を生み出す。そしてGrow。育つ。英語のGrowは目的語に人をとらない。人は育てるのではなく、育つのだ。勝手には育たない。育つのを見守るのだ。                                           

 78期生の皆さん入学おめでとう。始業式で在校生に送ったSはSkill, StrategyのInitial Letter。この3年間で多くのものを授かりますように!

以下に本日の入学式の式辞を記載します。

式  辞

 淡い色の桜の花びらの隙間から、姿を現す緑の葉に命を育む力強さを感じるこの佳き日に、大阪府立茨木高等学校、第78回入学式を挙行しましたところ、公私ご多用のなか、本校同窓会である久敬会のご代表、PTA、後援会の各ご代表をはじめ、多数のご来賓の方々にご臨席を賜り、入学生の前途を祝福していただきますことに、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます。皆様には今後とも、本校の教育に対しまして温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 ただ今、入学を許可しました320名の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。 

 本校は、明治28年に、大阪府第四尋常中学校として創立され、今年で創立128年目を迎えます。本校の初代校長、加藤逢吉(かとう ほうきち)先生が定められた校訓「勤倹力行(きんけんりょくこう)」(意味は生活を質素に日々努力して自ら磨くということです)と「質実剛健」の校風は、現在までしっかりと引き継がれています。また、本校では、「勤倹力行」「質実剛健」の伝統のもと、三つの教育目標として、「高い志の涵養」「枠を超える知性を備えた真のリーダーの育成」「自主自律の精神の育成」を掲げ、高校生活の中で生徒の皆さんが「本物に触れること」「多様性に富む、様々な年代の個性豊かな先輩方の背中を追いかけること」「未知なることに興味を持ち、問いかけることで互いに切磋琢磨すること」ができるよう様々な取り組みを実践しています。皆さんも、本校の伝統である「勤倹力行」「質実剛健」の姿勢を継承しながら、常に「高い志」を抱き、日々の努力を重ねて学校生活を送ってもらいたいと思います。

 それでは、本日、茨木高校の生徒として新たなスタートを迎える皆さんにお願いがあります。それは未知なるものに、興味を持つこと。面白いと思う範囲をどんどん広げてもらうこと、そして皆さんが面白いと思うことが増えれば増えるほど世の中が豊かになっていくんだということを信じてほしいということです。

 この3年間、コロナウイルス感染症に翻弄され続け、そして1年以上に渡ってウクライナの戦闘は続き、和平へ向かう道筋が未だ見出せません。これまでに築き上げてきた様々な知識や技術を総動員しても解決ができない事態に次々と直面しています。時代はanswer the question「あらかじめ用意された答えを導き出し、正解を得る」時代から、solve a problem「いたるところにある問題に対して、問いかけ、想像力をフル活用し、友と語り合い、新しい答えを導き出し、問題を解決する」時代へと移り変わってきています。その時代は、既知なる基地を飛び出して、未知なるものへの道を歩み、新たな未来へと導く人物を必要としています。その力はどこに宿るのでしょう。それは、皆さんの心に宿るのです。身の回りにある全てのことに「興味・関心」をもち、「おもしろい」と感じる心に「未知の道を行く」原動力が宿るのです。

 数年前、大阪府の数校の生徒を数十名、アメリカのボストンにある複数の大学で学ぶスタディーツアーの引率をしました。キャンパスツアーに参加する中で、大学生の一言を漏らさず聞き取った参加者の一人は大中小3冊のノートを場面、場面で使い分け、一日の振り返りを欠かさずやっていました。その日の彼の小ノートに書かれてあった「文理融合、産学連携、そして目の前にあることすべてを生かす」の言葉は、その時点では彼の「おもしろい」ことだったのです。そして彼は、その当時始まったばかりの、国公立の医学部の特別な入試でそのアメリカでの体験を語り、合格を勝ち取りました。「興味・関心」、英語では、Interestです。この単語には「利益・利子」という意味があります。「興味・関心」を持った大学生の言葉が、彼の学びや生き方に影響を与えたことが彼にとっての「利益」。そして、そこで問題が解決でき、何か成果を上げること、今ご紹介した例でいうならば志望校の志望学部に合格したこと、それは「利子」のようなものなのです。

 皆さんがさまざまなことに興味を持つことが、世の中の問題を解決していく大きな第一歩となる、自分の学びが社会を変える端緒となる。道を切り開いていく第一人者となる。自分の目の前で話す友人や部活であこがれを抱く先輩も様々な「おもしろさ・心の豊かさ」をもったかけがえのない存在であるということに気づき、様々な機会に、夢、人生、世界、そして未来について語り合ってほしいのです。

 昨年一年間、様々な年代の多くの卒業生の方に出会い、お話を伺い、茨高での3年間の「おもしろい」がその後の人生に大きな力となることは間違いないと確信しています。茨木高校に合格し、入学、通学、登校して学ぶ真の価値はそこにあるのです。巡り合う全てのこと、モノ、人からあらゆることを学び、吸収しつくしてください。

 最後になりましたが、保護者の皆様、お子様のご入学、誠におめでとうございます。

  先日、WBCで優勝した栗山監督にアナウンサーがインタビューの際に「日本ハムで育てた大谷選手とWBCで再開した際にどのようなことを感じられましたか」という質問に、すかさず監督は、「私は大谷選手を育てていませんよ。彼が育つのを見守っていたのです。」と答えられました。

 本校が掲げる「自主・自律の精神」の下でお子様は自ら考え、自ら行動できる「生きる力」を備えたたくましい若者に育つのです。「見守る」という栗山監督の言葉は「放任する」ということを示唆していません。自らが育つための決定権を「預ける」ということを意味しているのです。ぜひお子様に「預けて」ください。「預ける」をローマ字で書くと「Azukeru」です。お子様が何か困難にぶつかったときには、寄り添い、耳を傾け、そしてその想い、苦しさ、悲しさ、寂しさ、うれしさ、喜びを「共有」してください。英語では「共有」はShareです。先ほどのローマ字の「AZUKERU」の前にShareのSを置いてください。そこに何か「SAZUKERU」ものがあるのです。

 様々なことに興味を持ち、問いの答えを探し、問題に直面しながら、保護者の方々や我々教員、そしてかけがえのない友人と「共有、共感」することで、「授かる、授けられる」、S―Skill, Strategyを身につけることで自らの幸せと身の回りにいるすべての人を幸せにする力を身につけてほしいと思います。ご家庭、世の中の宝となるお子様をお預かりいたします。それゆえ、学校とご家庭が思いを共有し、ともに協力し合い、子どもたちに接していくことが、極めて大切であると考えています。どうか本校の諸先輩方が築き上げてきた伝統ある教育方針を十分ご理解いただき、保護者の皆様のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 新入生の皆さん、さあ、今日から皆さんは「茨高生」です。

 私たち教職員は、皆さん一人ひとりが持っているすばらしい志をさらに伸ばしていけるように全力でサポートしていきます。

 最後に絶対に忘れてほしくないことをお伝えします。それは疑問を持ち、問題に向き合っている皆さんを誰かが必ず「みて」いるということです。見学の「見る」。観察の「観る」。診断の「診る」。看護の「看る」。いつも、どこかで、見守っていること、いつも誰かが支えていることを心の中に携えておいてください。

 今日から始まる皆さんの高校生活が、新しい自分を発見し、実りあるものになることを心から願い、私の式辞といたします。

令和五年四月十日 

          大阪府立茨木高等学校

校 長 高江洲 良昌