「しん」と静まった体育館。誰もいない。時が止まっているかのような風景。でもその静止画が出来上がるまで多くの人の力が添えられて会場は準備されている。主役を待つ会場だが、人が入るまでに準備してくださった多くの方々への感謝の意味を込めて会場に足を運んだ。

在校生の言葉、卒業生の言葉、卒業歌。77期生による、76期生が示してくれた後姿、かけてくれた言葉をしっかりと受け継いでいくという決意の表明、卒業生による感染症と向き合う中で得たこと、最大の行事体育祭を通じて携えたもの、地域社会への貢献をはじめとする学内外での身につけたもの、課題研究を通じて心の中に宿ったもの、そして高校生活の様々な経験を語ってくれる数々の言葉。それぞれの個性を、それぞれの感性で表現していた。涙が止まらない。流れるままにする。卒業歌、生まれて初めて卒業式でギター、ベース、ドラムの演奏に包まれた。多くの76期生が歌詞を自分のものにし、詞を見ず、前を見つめて歌っていた。感染症と戦いながら、自分と向き合いながら、課題を解決してきたからこそ綴られる言葉、奏でられるメロディー。立ち止まるんだ。そして少しずつ歩くんだ。正しい答えなどない。止まる。少し、と書いて「歩」く。「正しい」を疑って一本抜いたら、止まる。立ち止まることを、振り返ることを恐れず歩いていく。

 濁点をとる。汗をかく。涙を流す。そうして濁点が落ちていくのかもしれない。「だめ」だと思った時にかいた汗と流した涙が自分の「ため」になる何かを教えてくれるのかもしれない。頂いたものは計り知れない。卒業おめでとう。出会えたことに感謝。心からありがとう!

以下は本日の式辞です。

式  辞

朝日が昇る時刻が少しずつ早くなる中で、かすかな春の訪れを感じることができつつある今日の佳き日に、大阪府立茨木高等学校 第七十六回卒業証書授与式を保護者の皆さまやご家族の方をお迎えして挙行できますことは、教職員一同この上もない喜びであります。   はじめに、公私ご多用の中ご臨席賜りました、久敬会、PTA・後援会の各ご代表のご来賓の方々に高いところからではございますが、心からお礼申し上げます。誠にありがとうございます。皆様方には、平素より本校教育に深いご理解と多大なご支援をいただいておりますことに、この場をお借りして改めてお礼申し上げます。

 ただ今、卒業証書を授与した三百十四名の七十六期生の皆さん、卒業おめでとうございます。進むことにためらい、止まることに戸惑いを感じながら手探りで歩みながら過ごした3年間だったのではないでしょうか。1年次にはコロナウイルス感染症の影響が大きく体育祭は応援の部のみの3年生中心の実施、一般公開のない文化祭、形を変えての妙見夜行登山。上級生の様子を眺めながら、中学時代も含め、様々な経験を踏まえたうえで挑むことになる2年次の宿泊野外活動。実施の可否すら検討を要する中で行われたこの行事は学校そのものにとっても大いなる決断でした。そんな憂いの中、天気予報を覆し、晴れを呼び込んでの国際通り散策、雷に翻弄されながらも計画変更をした上でのプールでのバレーボール。多くの人の才能が開花した全体レク。様々な状況に対応しながら、楽しむことを最優先に前向きに取り組む姿に頼もしさを感じました。

 妙見夜行登山では実施モデルがない中、小学校で休憩するたびに妙見委員の具体的で詳細な指示の下、安全で安心な登山活動が実施できました。しんと静まった夜の道、常夜灯を振って案内してくれる凛とした姿、その後すぐ最後尾から、元の隊列に戻るために走っていく力強い背中は今も心の中に焼き付いています。

 最上級生で迎えた体育祭。体育祭の開始前から機運を高めるために、各団の総長が朝、生徒玄関で挨拶を始めます。下級生は昨年体験していなかったことに触れることで気分が高まり、同級生は仲間との連帯感を感じていたのではないでしょうか。心でしっかりとつながった総長による選手宣誓、華やかさがあふれるマスゲーム、凛々しさを鼓舞する応援団、教頭先生の名講評を導いたマスコットたち、それぞれのパフォーマンスは多種多様で、さまざまな分野で、多くの人が躍動し、あらゆる人の力が発揮された一日となりました。すべてを終え、閉会式。1000人近い生徒の中で全校生徒にメッセージを発することができるのはただ一人、幸せになることをめざした茨高生から選ばれた総長はRemoteでその想いを伝えてくれました。願えば叶う。一人ひとりの「幸せになる」ことが、一人ひとりを「幸せにする」奇跡に立ち会った瞬間でした。「幸せ」は連鎖します。感謝を忘れない一人ひとりは3年ぶりの後夜祭を成功へと導きます。茨高の真の体育祭が復活を遂げました。伝統が見事に繋がり、継がれていくものとなりました。

 宿泊野外活動、文化祭、妙見夜行登山、体育祭。進むべき道を阻むものがあり、止まることを余儀なくされたり、曲がりくねった道を行かなければならなかったことが数々ありました。その度に合っているか間違っているかどうかという「答え」ではなく、心に問いかけその度に応じる「応え」を探し求めた。曲がりくねった道を進んできたからこそ数多くの風景を目にし、豊かな経験ができた。そして何度も立ち止まったからこそ、力強く歩を進められたのではないでしょうか。

そんな経験を積み重ねてきた76期生の皆さんにお願いがあります。これから世の中は大きく変化をしていきます。その中で変えたいこと、変えなければならないこと、変えてはいけないこと、大切に保ち続けなければならないことを常に自分自身、そして周りの人たちに問いかけ、茨高で感じ続けてきたこと振り返りながら歩んで行ってください。振り返ってほしい一例をお示します。それは体育祭でのアピール文の一節です。「本当に、みんながいてくれるからこそ頑張れて、何もかもみんなのおかげで今があります。時には自分自身を応援し、時には互いを応援し合ってきました。本番では皆さんを応援し、見て下さる人に元気と勇気を与えられるよう精一杯踊ります‼」

正しい答えだけを求めないで、少し立ち止まって、思いめぐらせて、遠回りを厭わず、歩んでください。走らないで、周りの景色を味わいながらゆっくりと歩を進めてください。その皆さん一人ひとりの歩みが「光」を生み出し、それぞれの場で活躍することでその光が一つの塊になって「輝き」へと繋がっていくのです。

最後に、保護者の皆さま、高校入試の年には2か月の休校、大きな不安を抱えての受験。合格を果たし、入学するも思い描いた高校生活と違う現実の世界に戸惑うことが数多くあったであろうお子様に声をかけ、心を寄せ、力を添え、共に歩んでこられ本日を迎えられたことに対して心から敬意を表するとともに、感染症下での行き届かないことも数多くあった本校の教育活動にご理解、ご協力、ご支援いただきましたことに心より感謝申し上げます。本校にお子様をお預けくださりありがとうございました。1000日を超える茨高生活で知恵を分かち合い、力を授け合ったお子さま一人ひとりをご家庭にお返しいたします。お子さまのご卒業、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。76期生の皆さん、最後にもう一言、心に届く「おめでとう」の数だけ、「ありがとう」を返してください。体育祭の大成功は「おはようございます」から始まり、数えきれない「ありがとう」につながりました。奇跡の方程式に欠かせないものは「感謝」に他なりません。みなさんの「ありがとう」が数多くの「おめでとう」を生み出すことを心より願い私の式次といたします。

令和六年二月二十九日 大阪府立茨木高等学校長                                                                                                                     高江洲 良昌