音がした。雷だったら遠くでうなるような感じの音。次に連なるように大きな物音が響き続けた。雷だったらどこかに落ちたと感じるような音だった。朝の自転車置き場。ほんの数台が最初倒れたのだろう。当事者の生徒と隣の生徒が起こそうとした次の瞬間におそらく十数台が次々と重力にあらがえなくなった。どこから集まったのだろう、引き返している生徒もいた。自転車を起こさずにはいられないという気持ち。おそらく言葉を交わしたこともない生徒のためにみんな力を貸した。そして力を借りた。
何も考えずに、誰かを意識せずに、力になりたいと思うこと、それを行動に移すこと、感謝の言葉なんてこれっぽっちも必要としていないこと。ありったけの言葉で感謝の言葉を伝えたいと思うこと。そんな瞬間を大切に思うのに、日常の中で出会えないことが世の中であたりまえになりつつある。
何事もなかったように「おはようございます」と笑顔。こちらは、心の中の「ありがとう」を「おはようございます。」にそっと添えた。