第41回音楽鑑賞会が開催されました

 8月28日(金)、ザ・シンフォニーホールで音楽鑑賞会が開催されました。今年で41回目です。シンフォニーホールという舞台で大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏です。ホンマモンの施設でホンマモンを体験する素晴らしい企画です。高校の段階でホンマモンに触れるというのはとても大切なことで、この経験が大きく人生に影響します。「経験していない=0」ですが、「1回でも(市岡では高校3年間で3回)経験した=1」です。0は何倍しようが0にしかなりません。でも1は、これからの人生経験をかけてあげれば、いくらでも大きくなります。

 今年の演奏曲は①モーツァルト作 歌劇「フィガロの結婚」序曲 ②ドヴォルザーク作 交響曲第9番 ホ短調作品95「新世界より」でした。どちらも名前は知らなくても聞いたことのあるメロディが含まれています。とても聴きやすい曲を演奏していただいたと思います。大フィルには、市岡の卒業生の方が3名おられ、その方々も紹介していただきました。在校生にとっては励みになったのではないかと思います。最後に大フィルの事務局長さんと御挨拶させていただきました。事務局長さんから「とても市岡の生徒さんは、鑑賞態度が良くて、嬉しかったです。聞いたことがある曲とは言え、長い時間の演奏ですから。ほんと素晴らしいです。」とお褒めの言葉をいただきました。

 最初の校長の挨拶では、音楽鑑賞会と全然関係のない話をしてしまいました。音楽について生徒の皆さんに語れるものがあればいいのですが、残念ながら私にはありません。以下、音楽鑑賞会で話した内容に少し手を加えて読み原稿にしたモノを掲載します。またご意見を寄せてください。

 

 

   8月28日 音楽会 講話

  私は、市岡高校に赴任して以下の4つの育てたい生徒像を示しました。すなわち、「志をもつ」「知性を磨く」「人生を描く」「人と繋がる」ということです。今日は、なぜこのような教育目標を立てたのかの話をしたいと思います。この話をするためには、今私たちが生きているこの現代社会をどのようにとらえるかという所から話をしなければなりません。そこから話をしたいと思います。

 

 私は、ちょうど1960年生まれです。日本が高度経済成長で、どんどん豊かになっていく時代に青少年期を過ごしました。小学校に上がる前に住んでいた家は、藁ぶきの今にも壊れそうな家で、台所にはかまど―「へっついさん」とよばれていましたが―がありましたし、庭には井戸がありました。ところが、その家も小学校時代には建て替えられ、台所は、キッチンと呼ばれるモノに変わりましたし、家にお風呂もできました。どんどん、身の回りが豊かになりました。ちょうど1970年、私が10歳のとき大阪で万博が開催されました。何かしら21世紀というのが、素晴らしい世界であると思わしてくれるような万博でした。

 

 この時代は、日本が右肩上がりの経済成長で社会のいろいろなシステムが完成していく時代なのです。たとえば、「年功序列」「終身雇用制」「護送船団方式」などというシステムが構築されていき、失業率も1%程度の安定した時代だったのです。1979年に社会学者エズラ・ヴォーゲルという人が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を書きました。日本的経営を高く評価し、その要因を分析した本で、日本でも70万部を超えるベストセラーになりました。この高度経済成長のシステムに乗っかれば、大体多くの人が幸福になれると確信していました。ですから、私は親からは「人に後ろ指をさされるようなことはするな」「真面目にコツコツ生きろ」と言われ続けました。この意味は、「このシステムから脱落するようなことはするなよ、そうすれば幸せになれるのだから」という意味だといまでは思います。

 

 この時代、人材育成もどのように行われていたかというと、「1%の優秀なリーダーと99%の優秀なフォロワーを育成すること」を目的としていました。ですから、学校現場では、 

「私語の禁止」「居眠り禁止」

「制服義務付け」

「遅刻欠席厳禁」「皆勤賞」

「先生に従うのが良い子」

という指導やシステムが構築されて、忍耐強さ、従順性、協調性などが重視されていたのです。この時代を「前期近代」とか「工業化社会」とか人は呼びます。

 

 ところがです。1991年にバブルと言われた空前の好景気が崩壊します。そこから、景気後退が起こり、デフレが続きます。「失われた20年」が始まったのです。絶対に潰れないといわれていた銀行が潰れます。1997年に北海道拓殖銀行が破たんします。銀行は、「体力強化」ということで合併吸収を行います。三井住友銀行なんて、昔の財閥が二つくっついた銀行ですから、私の感覚では「信じられない事態」ですし、三菱東京UFJ銀行なんて、どれだけの銀行が合併しているのかということです。さらに同じ年には、日本の4大証券会社のひとつ「山一証券」が経営破たんで廃業に追い込まれます。1980年には2%だった失業率は、1998年には4%を超え、2001年には5%を突破します。その後、4%~5%の間を推移していきます。また、1998年から自ら命を絶たれる方の数も年間3万人を超えるようになりました。大学生の就職率も60%前後に下がりました。その裏では、非正規雇用が増え、2005年には、女性で5割を超え、男性では、15歳から24歳の人口で40%以上、25歳から34歳の男性でも13%以上という状態が続いています。

 

 この「失われた20年」に一体どういうことが起こったのでしょうか?それは、高度経済成長で成功したシステムが、爛熟し、制度疲労を起こし、うまく機能していないということです。すなわち、護送船団方式は崩壊しましたし、終身雇用制、年功序列のシステムも崩れ、リストラが常態化しています。この間、「勝ち組・負け組」とか「下流社会」とかという言葉が流行しました。当然、前期近代の高度経済成長の時代よりも、かなり高いリスクが存在する時代なのです。このように、前期近代で構築されたシステムが、崩れていく今を「後期近代」であるとか「ポストモダン」とか積極的な意味を込めて「知識基盤社会」とか言われます。現在日本の経済状態は、好景気に転じていますが、それも日本の社会構造の構造改革にどこまで手をつけられるかで、今後の状況は変わってくるでしょう。

 

 後期近代では、前期近代のように社会のシステムに乗っかれば、ある程度の成功をつかみ、幸せになれるということは保障されません。いい学校、いい大学、いい会社に入ったとしても、いつ会社が吸収合併され、リストラにあうかわからない。それ以前に大卒であっても約30%の人が正規社員についていないのです。更にグローバル化の波が押し寄せています。日本国内だけの競争ではなく、世界の人材との競争になります。

 非常にリスクの高い時代ですから、システムに頼るのではなく、個々人の判断というのがとても重要になってきます。個々の人間の価値観・人生観・生き方・ものの考え方などなど・・・これが大きく人生を左右するのです。「トップが代われば組織が変わる」と言われだしたのも最近です。前期近代では、つつがなくすごせば、システムにのっかりそれなりの成果が得られたのですから、「トップ」のリーダーシップというのはそれほど声高に言われなかった。

 ですから、この時代を生きていくには、しっかりとしたポリシーを持たなければならないと思います。自分の人生をどのように歩んでいくのか、どのフィールドで人生を歩むのかという明確な「志」が必要なのです。そして、志を持つにあたって、もう一度原点に戻る必要があると思います。それは、「世のため人のために」自分は何ができるのかという志です。自分の能力を人のために役立てることを考えてほしいと思います。2000年初頭あたり、IT業界を中心に景気が一時期良くなりました。そのとき、球団の買収とかテレビ局の買収であるとか、世間ではとても話題になりましたが、果たしてあの人たちに「世のため、人のため」という視点があったのだろうか?己の利益追求が第一の目的なっていたのではないのかと思ってしまいます。ですから、君たちには「世のため人のため」という原点に立った志を持ってほしいと思います。

 

 また、後期近代では、学習のスタイルも変わります。「1%の優秀なリーダーと99%の優秀なフォロワー」を育成するということではだめなのです。それぞれがそれぞれの持ち場で「リーダーたる資質」を持つことを求められます。明治以降、教室では黒板と教科書とノートという形式が100年以上続いています。それが、電子黒板に変わろうと、パワーポイントの画面に変わろうと大した差はないのです。教師が教えることをひたすらノートをとる、プリントを仕上げる、という形です。君たちは、とても真面目です。ですから、教師がやりなさいと言われた範囲は、しっかりやれます。しかし、「言われたことを確実にやる」という能力だけでは、これからはだめなのです。どれだけ、自らが課題を見つけ、自ら解決できるか、共同で作業ができるか、などの学びが必要になるのです。その意味で、私は、市岡の先生方に「後期近代に適応する授業―アクティブラーニンを導入しよう」と呼び掛けています。君たちも、言われたことのみやるのではなく、自ら学ぶ姿勢を身につけてください。これからの世の中は、この点が非常に重要になります。

 

 最後に君たちに参考になる番組を一つ紹介したい。日曜の6時半からTBS系列でやっている「夢の扉」という番組です。毎週、様々な研究に取り組んでいる学者、企業の研究者、経営者、技術者等が登場します。彼らが、一つのことにこだわって、20年、30年、それこそ一生かけて研究し、開発を行っています。その原動力には、彼らの中に「これが成功すれば、多くの人の役に立つのだ、多くの命が助かるのだ」という思いがあります。また、過去に「人を助けられなかった」「未熟なゆえに人の役に立てなかった」という悔しい思いがあります。そういう原点を抱えて、彼等は、日々研究に打ち込んでいる、その姿を見てほしいと思います。いい番組です。素晴らしい志を持った人たちが登場します。是非とも参考にしてください。

この話を聞いた感想や質問等は、メールで寄せてください。待っています。ありがとうございました。

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